●「知らない」という違和感を受け入れる
私たちはキャリアを通じて、答えを導き出す習慣を身につける。それも、唯一の、決定的で、正しい答えだ。私たちの脳の回路は、不確実性をリスクや脅威と見なすため、不慣れな状況に直面した時にストレスを感じるのは、生理学的に正常な反応である。
正しい答えを知っていることや見つけることでキャリアを築き、大きな成果を上げてきた人にとって、そのようなストレスは特に顕著だ。こうした不快な感情を避けようとすることは、人間に生来備わっている傾向ではあるが、それが学習や将来の成長、ひいてはパフォーマンスの大きな妨げになりかねない。
そこで、こうした感情を避けるのではなく、違和感を認識して、学習プロセスで予想される正常な反応の一部として受け入れることを学ばなければならない。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが言うように、リーダーは「すべてを知っている」から「すべてを学ぶ」にマインドセットを変えなければならないのだ。
このようにマインドセットをシフトさせることで、すべての答えを知っていなければならないという重圧を降ろし、知らないことに対する違和感を和らげる一助になるだろう。
●「込み入った」と「複雑な」を区別する
私たちのほとんどが、「複雑な」(complex)という言葉と「込み入った」(complicated)という言葉を同じ意味で使っているが、実際には極めて異なる状況を表している。
たとえば、税法は込み入っている。つまり、高度に専門的で理解するのは難しいが、問題を細分して専門家、時には複数の専門家に相談すれば、大半は解決策が見つかる。
反対に、複雑な課題には相互依存関係にある要素が数多く含まれ、なかには未知の要素もあり、時間の経過とともに予測不可能な方法で変化する可能性がある。さらに、ある側面で生じる行動や変化が、不均衡で予想外の結果をもたらす場合もある。
たとえば、外交政策や気候変動は複雑な課題だ。こうしたトピックに関する意見はいくらでも出てくるが、明確な解決策はない。そのため複雑な課題の解決策は、基本的には試行錯誤の中から生まれ、行動し、学び、適応しようという意欲と謙虚さ、そして能力が必要になる。