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アップルが「アプリ追跡の透明性」(ATT)を導入したことで、デジタル広告業界は大きな変化を迎えている。ユーザーが広告識別子の共有をみずから選択できるようになれば、ターゲティング広告の効果が低減することが予想され、早急な対応を迫られているのだ。アップルに限らず、プライバシー保護の取り組みは今後も強化されることだろう。本稿では、デジタル広告を取り巻く長期的な環境変化に対応するための5つのポイントを紹介する。


 アップルは、自社のモバイルエコシステムにおけるプライバシーの設定を大きく変えつつある。

 同社は2021年4月26日、iOS14.5で「アプリ追跡の透明性」(ATT:App Tracking Transparency)というフレームワークをリリースした。これは、アプリ開発者やモバイルデータ測定会社、広告主によって、アプリやモバイルサイト間でのユーザーの行動を横断的に関連付けるために利用されていた、データの流れを途絶えさせることになる。デジタル広告業界の激変につながる動きだ。

 これまでアップルの端末では、アプリ運営者にユーザーごとのデータへのアクセスを提供する広告識別子(IDFA: identifier for advertisers)が初期設定でオンになっていた。今回のアップデートによってこれがオフになり、ユーザーはアプリ側にIDFAへのアクセス許可を明示的に与える必要が生じる。

 アプリ内でユーザーに、「(アプリ名)が他社のアプリやウェブサイトを横断して、あなたのアクティビティを追跡することを許可しますか」と尋ねる表示が出れば、オプトイン率はおそらく低いだろう。

 フェイスブックやグーグル、多くのニュースサイトといったオンラインコンテンツ運営者のビジネスモデルにおいて、ターゲット広告は決定的に重要だ。アップルのATT施策はターゲット広告に大きな打撃を与えるものだと、筆者らは予想している。

 とはいえ、デジタルコンテンツ提供の大手ならば、ATTの影響を感じつつも、これまで蓄積してきた大量の専有データ群が、彼らを長期的に守ってくれるかもしれない。

 一方で小規模な企業、たとえばターゲット広告に依存して顧客にリーチするeコマース事業者や、アプリのデータを収集し整理するモバイル測定事業者は、より困難な道を行くことになりそうだ。これこそフェイスブックが、アップルの方針転換に反対するキャンペーンで強調しようと努めてきた点である。

 アップルはATTの導入を通じて、自社のエコシステムにおける広告の役割を再考している。同社はこの動きによって、ユーザーのアプリ体験とコンテンツの選別をより厳密に管理できるようになる。

 さらに、同社独自のターゲット広告ソリューションの普及も促進できる。アップルが自社で開発した広告追跡サービスは、サードパーティのアプリに義務化されている文言に比べてわかりやすい言葉を使っており、最近アップストア内に新たな広告枠を導入した。

 プライバシーの分野でリーダーとしての地位を確立することで、自社のブランドを強化できるうえに、アップル製ハードウェアの売上げにも長期的なプラスの影響を及ぼすことができるわけだ。

 ATTは、現時点でデジタル広告のエコシステムに最も大きな影響を与える変化といえるが、ユーザーのプライバシーをめぐって近いうちにさらなる制限が実施される。

 プライベートクリック測定(PCM: Private Click Measurement)、グーグルによるコホートの連合学習(FLoC: Federated Learning of Cohorts)クロームによるサードパーティ・クッキーの廃止、GDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)といった政府のプライバシー規制――いずれもプライバシー重視の新時代が始まる兆しである。

 したがって広告主と広告会社は、一連の新たなルールに基づいて競争する方法を早急に学ぶ必要がある。変化に対応していく準備をどう整えればよいか、その手引きを以下に示したい。