実践的なアドバイス

 ケーススタディ(1)同僚に共感し、公にも個人的にも彼らをサポートする方法を探す。

 ゴードン・カレッジのキャリア・アンド・コネクション・インスティテュートでエグゼクティブディレクターを務めるアレクサンダー・ラウリーは、上司のお気に入りであることによる反感に対処するカギは、黄金律を忘れないことだという。

「自分がやってほしいことを人にもすること」とアレクサンダーは言う。「外からひいきにされている従業員を観察している自分を想像する。(そして、こう自問する)有力な後ろ盾がありながら、同僚をどのように支え、助けることができるか」

 アレクサンダーはキャリアの初期に、ニューヨークの投資銀行で比較的社歴の浅い上司(ジューンと呼ぶ)の下で働いていた。「彼女は非常に賢く、私たちの仕事上の関係は良好だった」とアレクサンダーは言う。

 ジューンは誰に対してもフレンドリーだったが、アレクサンダーが彼女のお気に入りであることに疑いの余地はなかった。

 彼女は自分のオフィスの前に、彼のデスクを置かせた。「重要な会議から戻ると、必ず私のところへ来て報告してくれた」とアレクサンダーは振り返る。「私は彼女の代理として雇われたが、実際は部門の共同ディレクターのようなものだった」

 アレクサンダーとジューンの親密な関係は、同僚たちにも知られていた。特に一人の同僚(シェリーと呼ぶ)は、かなり嫉妬していた。

「シェリーはチームの初期メンバーの一人で、自分のキャリアアップの軌跡がジューンのそれとリンクしていると考えていた」とアレクサンダー。「シェリーは、私が同じようにチームを管理しているような状況に、明らかに動揺していた」

 アレクサンダーはシェリーの懸念を払拭するため、自分が彼女の利益を最大限に考えていることを示す努力をした。たとえば、シェリーが他の幹部と接し、組織の優先事項を理解できるように、会議に頻繁に参加させた。「彼女の貢献をジューンが認めるように、彼女の功績を伝えた」とアレクサンダーは言う。「シェリーが輝くチャンスを得る支援をしたかった」

 アレキサンダーは、シェリーにとって特別よい同僚になるよう最善を尽くした。「彼女が何に取り組んでいるのか、何か手伝えることはないかとよく尋ねた」

 シェリーは感謝し、彼女とアレクサンダーは仕事における強い関係を築いた。

 アレクサンダーが現在、こうした状況にある学生に助言していることは、キャリアを向上させる側面と潜在的な危険の両方があると認識することだ。「同僚がどう感じているかを認識する必要がある。あなたは皆と強い関係を築くべきだ。ネットワークはキャリアにとって最も重要だからだ」

 ケーススタディ(2)距離を置き、上司と一緒に同僚を批判しない。

 クリス・リーは、上司のお気に入りであることが何をもたらすかを知り尽くしている。

 キャリアの初期に医療業務を仲介する会社に勤務していた時、彼はチームの中で最も社歴が浅かった。上司(ハロルドと呼ぶ)はクリスに特別な関心を寄せていた。他の同僚に向かってクリスを褒めたり、ランチに連れて行ったりした。

 ランチに行くと、ハロルドは他の従業員をよく批判した。「チームメンバーの仕事ぶりについて不平を言う時もあった。たとえば、『あいつは先月、大きな売上げを上げたから、いまはさぼっている』と言う」とクリスは振り返る。「私は気まずい思いをした」

 クリスは、上司がそうした話を共有する動機を考えた。「人は時に、自分の胸の内を明かしたいと思うことがある」とクリス。「上司は従業員の扱い方について私にアドバイスを求めていたわけではなく、ただ不満をぶちまけたかったのだ」

 しかし、上司が他人を批判するのを聞くと、クリスの同僚に対する「見方に影響した」ため、その習慣を止めなければならないと思った。

 そこでクリスは、ハロルドの考えに「やんわり疑問を投げかける」ことで会話に客観性を持たせ、ハロルドが「一歩引いて」全体像を考えるようにした。クリスはけっして批判には加わらなかった。

「上司が言ったことを繰り返すこともあった。たとえば、『先月、彼は多くのビジネスを獲得したとおっしゃいましたよね』というふうに」とクリスは言う。「また、上司が同僚の成績不振を怠惰のせいにしていたら、『彼は厳しい時期にあるのかもしれません』と言った。憶測でものを言ったり、首を突っ込んだりはしなかった。自分はその立場にはないからだ」

 クリスは周囲がどう見ているかにも気をつけていたため、同僚とのランチを増やして、上司と距離を置くことを心がけた。

 その仕事を2年続けたクリスはいま、大手医療機関のシニアマーケティングマネジャーを務め、キャリアコンサルティング会社パーパス・リディームドの創業者でもある。

 クリスは現在もハロルドと非常によい関係を維持している。「上司とあのレベルの信頼関係を築くのは難しく、それが当たり前だと思ったことはない」とクリスは言う。「彼は他の仕事の推薦者になってくれたり、私とプロジェクトの契約を結んでくれたりもした」


"The Hazards of Being the Boss's Favorite," HBR.org, May 13, 2021.