グローバル化に関しては特に
二者択一的な思考に陥ってはならない
外的ショックを分析し、対応を検討する際、人はオール・オア・ナッシングの発想をしがちだ。しかし、そのような考え方に陥ると、意思決定者は過剰反応し、適切な情報に目が向かなくなり、レジリエンスが損なわれかねない。
とりわけこの落とし穴にはまりやすく、かつその弊害が特に大きいのは、グローバル化について分析する時だ。新しいテクノロジーが普及すれば国境と物理的な距離は意味を持たなくなるという予想が裏切られ続けてきたのと同様に、脱グローバル化の流れが始まるという予想もしばしば大げさだった。
2020年4月の時点で、EYの調査に回答した企業幹部の83%は、パンデミックの影響に対処するために、生産拠点を国内や近隣の国に戻すことを検討していると述べていた。しかし、10月にはもっと慎重な見方が広がり、そのような対応を検討すると答える企業幹部は37%まで減少した。
もちろん、生産拠点を国内や近隣諸国に戻すことが理にかなっていた企業もあるだろう。だが、そのような選択が過剰にもてはやされていた面が大きい。実は、コロナ禍が始まって以降、欧州と北米の主要国ででは、平均するとコロナ以前よりも遠くの国からの輸入が増えている。
DHLは、それまでに蓄えてきた記憶、的確な予測、そして顧客との緊密なやり取りを通じて、2020年3月に取引高が急激に落ち込んだ時、過剰反応せずに済んだ。
幹部チームは、2010年に欧州で火山の噴火により火山灰被害が広がった時や、2011年に日本で東日本大震災が起きた時など、過去にサプライチェーンが大混乱をきたした際、その後は比較的早期に回復したことをよく知っていた。また、経営陣はさまざまなビジネス関連の予測に注意を払い、一部の業種の顧客企業がDHLのサービスをいっそう必要とするようになるのではないかと考えた。
それに基づき、コロナ禍の初期にDHLが下した重要な決定の一つは、社員の解雇を避けるというものだった。2020年末までに、DHLは社員の数を何千人も増やした。あとになって、この選択が正解だったことが明らかになる。
物事が急激に変化している時にバランスの取れた視点を失わないためには、「DHLグローバル・コネクテッドネス・インデックス」(国際連結性指数)の共同考案者でもあるパンカジュ・ゲマワットが言う「グローバル化のヨーヨー現象」を理解すべきだ。
二者択一的な思考に陥ると、「フラット化する世界」か「グローバリゼーションの終焉」かという両極の発想をしがちだ。しかし、このどちらの考え方もレジリエンスは生まない。どちらの考え方に基づいて行動しても、1つの場所に過度に依存する結果を招くからだ。前者の考え方をする場合は国外、後者の考え方をする場合は国内に依存しすぎる。
グローバル貿易の現実は、常にこの両極の中間にある。貿易が停滞する局面はあるかもしれないが、貿易を通じた多角化は企業のレジリエンスを高める効果がある。この点は、これまで繰り返し実証されてきた。