そこで筆者らは一連の研究を行い、#MeTooムーブメントが始まって以来、映画業界の女性脚本家のリプレゼンテーションや登用機会が改善したかどうかを検証した。

 まず、業界のデータベース「ダン・ディール・プロ」を使って、2014年1月から2019年9月までに開始されたプロジェクト約4000件に関するデータを収集した。

 次に、一般にも利用可能な映画データベース「IMDb」を使い、それぞれのプロジェクトの製作メンバーがワインスタインと関わりを持っていたかどうかを調査した(2017年10月までに公開されたワインスタイン製作映画のプロデューサー、監督、脚本家、出演者であるかどうかを基準とした。2017年10月は、ワインスタインによる性的暴行が明らかにされた時期)。

 これにより、#MeTooムーブメントによって大きな影響を受けた可能性が高いと考えられる人々を特定できた。なぜならば、#MeToo問題はとりわけ、ワインスタインの映画製作に携わっていた人たちに顕著である可能性が高いからだ。

 したがって、ワインスタインと関わりのある製作関係者と、ワインスタインとのつながりが知られていない製作関係者を比較することで、両グループに共通する#MeTooとは無関係の社会トレンドが及ぼした影響や、ワインスタインとのつながりがあったか否かにかかわらず業界全体の映画関係者に影響を与えただろう#MeTooのインパクトを差し引いて検証することができる。

 さらに、ワインスタインと関わりがあったのは総じて経験豊富な製作者であることから、サンプル数を2000件程度のプロジェクトに絞り込んだ。そうすることで、ワインスタインと関係がある製作者によるプロジェクトの本数と、ワインスタインと関係はないが、経験値が同レベルの製作者によるプロジェクトの本数が一致するようにした(経験値については、これまでに製作したメジャーな映画の本数、アカデミー賞にノミネートされた回数と受賞数、そして大手映画製作会社や主要タレントエージェンシーとの協働範囲により測定)。

 これにより、製作者の経験値の高さが#MeTooムーブメントに影響を与える可能性を考慮に入れることなく、同一条件下で両グループを比較することができた。