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「いかなる場合でも、自分と部下はみずからの能力を最大限発揮している」と断言できるリーダーは、どれだけいるだろうか。ましてや、危機下の不確実な状況においては、通常業務を滞りなく成し遂げることすら難しくなる。筆者らは以前の研究で、従業員の能力を引き出す、あるいは阻害する要因を特定しているが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で働く看護師を対象に調査を行ったところ、そうした要因が危機下ではさらに重要になることが明らかになった。本稿では、危機下で奮闘するリーダーに向けて、従業員の能力を最大限引き出すための個人的、対人的、組織的要因について、具体例を挙げながら論じる。


 米国の労働者は、コロナ禍の前でさえ、自分の能力を最大限発揮できていなかった。

 筆者らが2017年にさまざまな業界の労働者1万4500人を対象に実施した全国調査では、約85%が「100%の能力を使って仕事をしていない」と回答した。「100%の能力を使って仕事をしている」と回答したのは、労働者のわずか15%という結果だ。加えて、16%が「能力の50%も使っていない」と答えている。

 大多数の労働者が、その能力を最大限に発揮するのを妨げていたものは何だったのか。また、それができていると回答した少数の人々に、それを可能にさせたものは何だったのか。

 同調査で筆者らは、従業員が仕事を最も効果的に行うためのケイパビリティに関わる、個人的、対人的、組織的要因を特定している。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、不確実性や不安が生じた時、筆者らはこの研究を再検証し、大規模な大学病院に勤務する看護師を対象にインタビュー調査を開始した。その結果、以前の研究で明らかになった従業員の能力を引き出す、あるいは阻害する要因が、危機下でよりいっそう重要になっていることが明らかになった。

 筆者らの研究から得られたインサイトは、危機の際にも、組織のリーダーやマネジャーが従業員の能力を引き上げるための一助になるだろう。

従業員の能力を最大限発揮させる条件

 米国の労働者1万4500人を対象とした調査では、従業員が能力を最大限発揮していると回答しているのは、以下の場合であることがわかっている。

・何を期待されているかが明確である。
・積極的に質問する意志があり、そうしても安全だと感じている。
・仕事のやり方に関する規則や非生産的な会議が過剰ではない。
・組織が創意工夫を支援し(従業員が提案した改善策の実行など)、功績に応じて報酬や表彰を行っている。
・上司が部下の感情に気づき、それを認め、自分の意思決定が従業員にどのような影響を与えるかを理解し、部下自身の感情のマネジメントを支援している。
・自分の仕事にパーパスや意味を見出し、組織にコミットしている。

 重要なのは、このリストは個人的、対人的/人間関係的、組織的要因が組み合わさっている点だ。つまり、個人のマインドセットが上司から与えられる支援と同様に重要であることが示されているだけでなく、上司や組織の支援がなければ、最もコミットしている意欲的な従業員であっても、自分の能力を十分に発揮できない可能性があることも示されている。

 筆者らは、パンデミック下の病院で働く看護師を対象にインタビュー調査を行うことで、これらの要因が労働者のワークエクスペリエンス(仕事体験)に与える影響に関して、筆者らの理解が正しいかどうかを検証することができた。