従業員の能力を引き上げる
筆者らが明らかにした組織的、対人的、個人的要因は、コロナ禍において看護師が能力を発揮できるかどうかを左右していた。
仕事のやり方に関する病院経営者からの期待が明確になると、患者を癒すという目的意識をより強く持って、仕事に従事することができるようになった。創意工夫することに上司から支援を受け、難しい感情のコントロールを手助けされた看護師は実際に、より機知に富み、みずからを奮い立たせて能力を最大限発揮しようとした。
これらの教訓は、マネジャーや他の組織が、能力を最大限発揮しようとする従業員を最善の方法で支援するための指針となるだろう。
組織として従業員を支援するには、官僚的な要求を削減し、信頼の文化を醸成し、リーダーシップの役割を再考すべきである。
筆者らの研究チームは、リストラクチャリングをはじめとする組織の大規模変革を導いた経験から、従業員の日常の機微を知ることによって、彼らの仕事の妨げになる官僚的で冗長で不要な行動を削減する方法が浮き彫りになることに気づいた。
信頼の構築には、上司や組織のリーダーが従業員の仕事の悩みやウェルビーイングを気にかけ、それを従業員が実感することが必要だ。真の信頼関係を醸成するには、マネジャーは組織のあらゆるレベルの従業員に意見を求め、従業員の考えを認め、みずからの意思決定が従業員のワークエクスペリエンスに与える影響を理解しなければならない。アイデアを受け入れない、または受け入れられない場合には、その理由を伝える必要がある。
相手に意見を求め、それに対する返答をしっかりと伝えることで、従業員は自分の意見を聞いてもらえたと感じる。そうすれば「予算不足だ」といったありきたりな説明や用意されていたかのような回答で、自分の意見が拒否されたと従業員が思うことはない。
リーダーは、自身のEIスキルの向上と実践に取り組み、従業員がみずからの感情を認識して理解し、実際に役立てたり、管理したりする手助けをすべきだ。
パンデミックの中、EIの高い行動を取ることは、従業員の高まる不安を認め、このような状況で圧倒されることはスキル不足の表れではない、と安心させることになる。EIに基づいて行動する上司は、職場にポジティブな雰囲気をもたらし、部下の成長を可能にして、自身の能力を高めるはずだ。
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最良の時でさえ、多くの従業員が能力を最大限には発揮できていない。これは本来、対策を取るべき事態である。
人間の能力は、エネルギー貯蔵庫のようなものだ。ストレスが緩和されずにその一部が失われれば、仕事のパフォーマンスに供給される燃料が減少したままになる。
このような生産性を低下させるストレスを軽減するには、本稿で示した個人的、対人的、組織的要因というレンズを通じて、マネジャーが従業員体験を考慮することが欠かせない。個人レベルでの生産性とウェルビーイングは、組織レベルでの生産性と成功を可能にするのだ。
"Research: What Do People Need to Perform at a High Level?" HBR.org, May 17, 2021.