●共感を演出する

 こうしたレベルの心理的安全性がある環境を構築するために、社会的交流の道筋を用意する企業もある。

 たとえば、広告エージェンシーのアーノルド・ワールドワイドとハバス・メディアは、客員起業家のマイケル・テナントが設計した共感ワークショップを開いている。

 ワークショップでは、参加者がカードを引くと、「私のユニークな部分はどこか」といった自省を促す質問が書かれている。その質問に答える前に、自分の内的反応(「心臓がばくばくした」「頭が真っ白になった」など)を明らかにし、その感情反応に名前をつける(「羞恥心」「不安」など)。先にこうした感情を打ち明けておくと、他の参加者はカードの質問に対する答えを聞く前に、その人物に共感するようになる。

 このワークショップは交流の第2の要素、つまり支援反応にも道筋をつける。カードを引いた人が、そこに書かれた質問に答えたら、他の参加者も同じカードの質問に対する自分の感情反応と答えを発表しなければならない。

 ワークショップに参加したある人物は、カードを引いた人に対して「あなたが不安を感じているのがわかった。それを見て、私も不安になった」と打ち明けた。「私があなたの立場だったら、どう答えるだろうと想像したからだ」

 こうしたワークショップが、会社の人間関係を深化させるかどうかはまだわからない。だが、アーノルド・ワールドワイドの最高人材責任者であるジュリアナ・アクアモアは、すでに従業員同士の見方や対応にかなりの変化が表れていると語る。

 社会的支援や共感を別の方法で演出している会社もある。たとえば、ミシガン大学センター・フォー・ポジティブ・オーガニゼーション博士課程のヒラリー・ヘンドリックスと同センターおよびノートルダム大学の研究チームは、レストランチェーンで行われている「感謝の輪」の効用について研究している。

 そのレストランチェーンでは、ランチタイムのシフトが始まる前に、従業員が輪になる。ランダムに選ばれた1人が輪の中央に立ち、他の同僚はその人物の好ましい側面や素晴らしい側面を挙げる。初期の研究結果によれば、感謝の言葉を発した従業員もその言葉を受け取った従業員も、以前よりも互いのつながりを強く感じるようになったという。

 アーノルド・ワールドワイドの事例もレストランチェーンの事例も、このように人為的に共感を生み出す仕掛けには、抵抗感や気まずさを覚える参加者もいることを示している。こうした体験が、通常の職場には存在しないことは間違いない。加えて、参加者が「操られている」あるいは「利用されている」と感じることがないように、慎重に管理することも必要だ。

 しかし、職場で真の人間関係を築くには、時として、よりオープンかつ感情を伴う個人的交流が強いられる必要があることを、これらの企業は理解している。こうした会話を快適に感じ、日常的に交わされる日をただ待っているだけでは、「その日」は永遠に来ないかもしれないからだ。