●一緒に働く同僚

 パンデミック中かどうかにかかわらず、最も一般的な退職理由の一つは、職場の対人関係に関する不満である。

 チーム内のあるメンバー、あるいは上司のせいで悲惨な職場生活を送っているのなら、この1年はPCの画面越しという限定的な接触で済んだことが、天の恵みのように思えただろう。仕事が対面に戻ることで衝突の可能性が高まりそうな場合、いまが辞め時だと思うかもしれない。

 だが、退職を一方的に決めてしまう前に、別のプロジェクトやチームに異動できないか、頼んでみる価値はある。もし新たなニーズや機会が見つかりそうな部署がわかっているなら、具体的に名前を挙げるのもよい。

 ジャーナリストのブラッド・ストーンによれば、アマゾン・ドットコムでは「悪しきマネジャーからいつでも逃れられるように」、新入社員であっても、いつでも社内で職を変えられるという方針を採用している。他の企業も競争上、「同様の方針を採用しなくては」というプレッシャーを感じ始めるかもしれない。

 ●給料の金額

 お金は万能薬ではない。有害な同僚と一緒に働かなければならないなど、仕事を辞めたくなる具体的な痛みを感じているなら、その問題に直接対処しなくてはならない。結局のところ、毎日悲惨な思いをするなら、昇給したとしてもどれほどの意味があるだろうか。また、調査によれば、多くの従業員はリモートワークなど、他の部分で柔軟性が高まるのであれば、収入を多少犠牲にしても構わないと考えている。

 しかし、問題がお金の場合もある。給料が見合う分支払われていないと感じていたり、自分の市場価値を上げる新しいスキルや経験を身につけたり、切実な人生の目標(家を買えるだけの収入を得るなど)があったりする場合は、昇給することで仕事を辞める必要がなくなるかもしれない。

 何についても言えることだが、要求は思慮深く持ち出し、あなたが会社にもたらす価値と昇給のメリットについて、筋の通った主張をすることが大切である。

 一般に、交渉に辞表をちらつかせるのは、脅しや操作のように相手に伝わる可能性があるため、避けるのが賢明だ。しかし、条件が合わなければ本当に辞めるつもりなら、雇用者に率直に事情を明かすほうがよい。たとえば、次のように言うことができるだろう。

「私としては、ずっとこの会社にいたいと思っています。でも、いまは家を買うべきだと判断したのです。そのためには、年間であとこれだけ多く稼ぐ必要があります。この会社でそれが可能かわかりませんが、少なくとも確かめてみようと思いました。もし実現すれば、本当に嬉しく思います」

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 時には、転職が明らかに正しい選択であるだろう。だが、ある特定の問題以外はおおむね現状に満足している場合には、転職に踏み切る前に上司に相談してみる価値はある。

 私たちはいま、ポストコロナに向けた再調整のまっただ中にいる。雇用者は優秀な人材を何とか引き留めておきたいと考えているため、通常と比べて例外を認めてくれたり、一緒に創造的な選択肢を考えてくれたりする可能性が高い。

 本稿で紹介した質問を戦略的にすることで、「本当は辞めたくないのに、辞めなくてはならない」というストレスや面倒な問題がなくなり、現在の仕事を自分にとって最適なものにする、またとない機会になるだろう。


"Are You Really Ready to Quit?" HBR.org, June 08, 2021.