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コロナ禍で米国の医療制度が抱える問題点が浮き彫りになった。新型コロナウイルス感染症患者の急増で病床不足が生じただけでなく、情報や連携の不足から仮設病院への患者移送が機能しなかったり、満床にもかかわらず大幅な減収に見舞われたりした。背後にあるのは、高額サービスに偏重する病院と医療保険会社の収益モデル、そしてセクターとしてのセーフティメカニズムの欠如だ。本稿では、それらを踏まえ、危機下における医療需要の急増に対応できる病院システムの構築について論じ、政策がそれをどう後押しできるか、いくつかの提言を行う。


 新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、病院財務の深刻な欠点が露呈した。ホットスポットとなった地域では、多くの病院が十分な病床数供給できなかったにもかかわらず、ベッドが100%埋まった時でさえ、いくつもの病院が深刻な減収に見舞われた。十分に機能している市場で、需要が供給を超えていながら、収益が減少することはありえない。

 今回の病床不足は、米国が他のOECD諸国に比べて医療費の対GDP比がはるかに大きいにもかかわらず発生した。米国国民1人当たりの病床数は、米国よりも医療支出が少ない英国やカナダとほぼ変わらず、人口1000人当たり約2.8床であり、ドイツの半分にも満たない。

 コロナ禍への対応で、米国は、勇敢で優秀な医師やその他の医療提供者、研究者、施設に恵まれていることが証明された。しかしそれと同時に、米国の医療制度が新型コロナ感染症患者の急増に対して、極めて準備不足だったことも明らかになった。そうした失敗を冷静に評価することが医療制度の改善に役立つはずだと、筆者らは考えている。

 本稿では、その最大の欠点が、パンデミックを含むあらゆる医療ニーズへの対応よりも、高額サービスの提供に偏重する病院と医療保険会社の収益構造にあるとしたうえで、危機下における医療需要の急増と国民の医療ニーズに対応できる病院セクターを創出する方法について論じる。

病院の財務モデル

 米国の病院の財務モデルは、関節置換手術や心臓手術のように、高額の診療報酬が支払われる収益性の高いサービスの提供に大きく依存している。国民のより広範な医療ニーズを満たすことよりも、そうしたサービスが優先されているのが現状だ。

 新型コロナ患者は、病院や医療スタッフの資源をより多く必要とするが、彼らが受ける集中治療の診療報酬は、待機手術に比べて利幅が小さい。新型コロナ患者を治療するということは、緊急性はないが儲けになる待機手術を後回しにすることを意味した。

 コロナ禍は、このビジネスモデルが招いた事態だけでなく、そこから逸脱できない現実も浮き彫りにした。

 ニューヨーク市が新型コロナ患者を受け入れる仮設病院を建設した時でさえ、こうした「緊急病院」は、従来のより広範な医療システムにつながっていなかったため、多数のベッドが空いたままの状態だった。患者を空き病床に移すなど、あふれた患者を連携診療や継続的なケアに組み入れることができない病院があまりにも多かった。