デジタルで変わる
今号の特集の全論考に共通するのは、今、経営マターとして最も注目されるDXの方向性を示していることです。ただし、論考を読み比べると、主張に少し違いがあります。
「企業の状況に合ったシステムを導入して、漸次ステップアップが適切」「業務プロセスを俯瞰してトップダウンでシステムを選択すべき」「効果の出やすい領域で実績を示し、企業全体に拡大」等々です。新しいシステムによって、変革を志向するのですから、考え方に広がりが出るのでしょう。
DXという言葉自体が、新しい動きを明示するバズワードで、人によって理解にズレもあります。多くの関連書籍が発行される中、「DXの本質とは、要はデジタル(データやテクノロジー)で変わること」という表現に始まって、DXを一般向けに分かりやすく解説する新刊としてお薦めなのが、『IGPI流 DXのリアル・ノウハウ』(冨山和彦、望月愛子著、PHP研究所)です。
現状は、専門家と部門マネジャーの間に、システムへの理解などについて溝があることが大きな課題ですので、それを埋めるために役立ちます(今号の特集論文「AIへの投資を利益につなげる方法」が指摘する課題への解です)。
著者は、生産性や創造性の向上における日本企業の課題を変革によって解決してきた経験が豊富で、かつテクノロジーの動向を捉えた企業の成長支援にも注力しており、DXの方向性を示す論考として的確です。
進行するDXの現場で、具体的に何が起きているのかを"つかむ"ためには、『ルポ 日本のDX最前線』(酒井真弓著、集英社)が、平易な言葉で著されていて、良いでしょう。
経済産業省や金融庁などの霞が関官庁といった変革の難所に始まり、セブン銀行やコーセー、コナミデジタルエンタテインメントなど幅広い分野をカバーしているので、読者の皆様の関連・隣接業界の様子もわかるかと思います。今月号に登場するトライアルグループのDXについても、別の角度から知ることができます。
「DXの本質は、5年先のキーテクノロジーの進化を予測して、経営者が自社のビジネスモデルの作り直しを考え続けること」と言うのは、『シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養』(幻冬舎)や『2025年を制覇する破壊的企業』(SBクリエイティブ)など、テクノロジーによるビジネス変化についての著作が多いベンチャー投資家の山本康正氏です。
デジタルテクノロジーが劇的な速さで進化し、業界を超えて新規参入や破壊的イノベーションが起きやすくなっています。企業は生き残りをかけて、テクノロジーの動向を踏まえた、自己変革を続けなければならない、と指摘します。
そのための1つの方法として山本氏が提唱するのが、世界のベンチャーと連携することです。今日のデジタルテクノロジー、特にソフトウェア関連の最先端はベンチャーから多く生まれます。開発するのにハードウェアほど多額の資金が必要なく、世界の逸材は自らの才能を存分に生かすべく起業する志向が強いからです。
今日の最強企業、いわゆる"GAFA"(Google、Amazon、Facebook、Apple)も、多くのベンチャーをM&A(合併と買収)し、新たな才能を取り込むことで、成長を続けています。
そこで必要なのは、テクノロジーの最新動向とともに、自社に吸収すべきベンチャーや才能がどこにあるのかを、知ることです。経営者にはそうした最新情報を得るための人的ネットワークや、人を見る目利き力が求められると山本氏は言います。
山本氏の最新刊『銀行を淘汰する破壊的企業』(SBクリエイティブ)では、金融の世界を扱っていますが、テクノロジーが業界を超えて世界を変えることが示され、多くの人に参考になると考えます(編集長 大坪 亮)。