DX(デジタル・トランスフォーメーション)で、企業価値を高める経営が求められています。『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2021年9月は、主にマーケティングでその最先端となる、人工知能(AI)の実装における要諦を特集しました。
特集1番目は、斯界の権威であるトーマス・ダベンポート氏らが、マーケティングにAIを導入する手順を解説します。進化が速く、種類の多いAIアプリケーションを4分類したフレームワークを示し、難易度と現状を踏まえた導入を提案します。用途や事例が書かれ、理解しやすいものとなっています。
2番目はずばり、「AIへの投資を利益につなげる方法」です。現状は、データサイエンティストとマーケターの間に溝があると指摘します。そこで、AI活用ではマーケティングでの課題を正しく設定し、投資効果を見極め、きめ細かい意思決定を行う必要があることを、論理的に提言します。
一方、3番目の論文は、組織の各現場でマーケティングツールを決めてしまうがために企業全体で機能しないことに課題があるとして、トップダウンでの導入を推奨します。カスタマージャーニーを分割し、各段階で効果のある戦術を策定し、それぞれに合ったツールを、全体最適を考えて導入する実践的アプローチです。
4番目は、機械学習ベースのAIのリスクと管理論です。AIはマーケティング以外にも、自動運転や医療診断など幅広い分野で使われています。しかし、新たな情報から学習して自律的に判断するAIが、常に倫理的で正確な判断をするとは限りません。そうしたリスクをどう考え、管理するかを論じていきます。
5番目は、日本の小売・流通業界におけるAI実用化に向けた具体的な動きの論文です。メーカーや卸、小売りなど業種を超えた約250社が参画し、AI活用の実証実験などを行うリテールAI研究会の運営等に関わる筆者らが、実店舗でのAI活用事例や実験結果を紹介します。
また、AIを用いてイノベーションを起こせる組織へと変わるために欠かせない3つの考え方、「データサプライチェーンの構築」「レトロフィット」「オペレーションドリブン」を論じています。
特集の最後は、この分野の第一人者である楽天グループ常務執行役員チーフ・データ・オフィサーの北川拓也氏へのインタビュー、「データとAIの力でウェルビーイングな社会を実現する」です。
今日マーケティングは、個人の想像力に頼る方法から、データで可視化された需要を把握し、それを的確に満たしていく方法へと進化しています。ただし、企業が人々の求めるままに需要を満たしていけば、格差や差別を助長したり、地球環境にダメージを与えたりするなど、負の影響も拡大します。データやAIの力を倫理的に活用して、ウェルビーイングな社会を実現するために、企業は何を理解し、どのような行動を取るべきなのか、進化の方向性についての考えを聞きました。
巻頭論文では、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーらによる「AIの可能性を組織で最大限に引き出す4つのステップ」。アジャイルな発想でAI導入効果を末端にまで拡げる方法論です。ビジネスモデルと仕事の進め方を再検討し、自社にとって最も重要な部分から始めていくべき、と説きます。