なぜオフィスが必要なのか

 経済学者らによると、企業が従業員を同じ時間に、同じ場所で働かせることを好むのには2つの理由がある。

 第1に、従業員の監視が容易だからだ。この主張は、信頼できる多くのエビデンスに裏付けられており、仕事を計測することが難しい従業員(プログラマー、会計士など)はなおのことだ。電子的な方法による仕事の監視はパンデミック以前から普及していたが、技能を要する仕事はそのやり方で監視することは困難だ。

 企業(あるいは企業内の特定のマネジャー)が、従業員の仕事ぶりを判断するのに、距離の近さと実際の観察に頼っている場合は、中核的な活動をオフィスの外に移すことはいっそう難しい。

 企業がオフィスを持つ2つ目の理由は、非公式な意見交換をサポートすることだ。この考え方は定着しているが、おしゃべりが創造性を高めるという主張を裏付ける証拠はほぼない。非公式な交流が情報交換やネットワークの構築に役立つことは研究で明らかになっているが、それにより企業の生産性が向上することを示す研究はない。

 生産性を第一に考えるのであれば、従業員に非公式な交流を求めて、彼らがオフィスを離れることを阻むべきではない。しかし、非公式なミーティングが企業文化の重要な部分を占めている場合、リモートワークはそれを損なう恐れがある。

 そのため、マネジャーはチームの中で非公式な交流がどのような役割を果たしているか、また、在宅勤務がそれにどのような影響を与えるかを慎重に考える必要がある。

 オフィスを持つ理由として、監督と非公式な交流という2つの理由は以前から明白だった。しかし、リモートワークが始まって1年が経過したいま、多くの企業ではこうした理由の重要度が変化している。

 当然のことながら、マネジャーがリモートで働くチームを監視できるかどうかは、仕事の内容だけでなく、マネジャーのスキルにも左右される。すべてのマネジャーがリモートチームの優れたリーダーになるために必要なスキルを持っているわけではないが、そうした能力は訓練すれば向上する。

 多くのリーダーは、ビデオによるチェックインミーティングが巧みになり、対面せずに人材を採用することもできるようになった。そのため多くの人のリモートマネジメントのスキルは、パンデミック前よりも格段に向上しているという意見もある。

 従業員は、ビデオ会議やスラックなどのプラットフォームを利用して、テクノロジーを介した対話にも慣れてきた。これらのテクノロジーを支えるには投資が必要だが、リモートワークや混合型ワークに切り替える際の最大のコスト、すなわち新しいテクノロジーに適応するためのコストはすでに支払われている。

 パンデミックの影響でオンラインへ移行した際に発生したサンクコストを回収したいからという理由で、長期的なリモートワークを実施すべきではない。ただし、パンデミックによって、リモートワークに移行するためのコストは不可逆的に減少し、その選択はより安価になった。要するに、都合のいい時や必要な時に、リモートワークに切り替えることが容易になったのだ。

 これらの要因を総合すると、ほとんどの企業では、今後はより多くの活動がオンラインで行われるようになると言える。調査結果にばらつきがあるものの、勤務時間の約20%は自宅になるという学術的な推計もある。つまり、オフィスのキャパシティはパンデミック前の約80%で済むということだ。