オフィスの縮小を検討する際に考慮すべきこと

 企業が将来的に必要とするオフィスの広さだけでなく、その立地について考える際には、以下の要素が指針となる。オフィスの計画にはサイズ、ロケーション、コストが相互に関連しているため、これらに関する決断は密接に関係している。

 ●従業員の意識

 調査によると、ほとんどのオフィスワーカーはオフィスに戻りたいと思っているが、それも週に2~3日程度だ。すべての従業員が同じ日に出社することは考えにくいため、優秀な人材に魅力的なワークスペースを提供するのにも、従来よりも狭いスペースで済む。

 これはスペースの広さよりもが重要になることを示唆している。企業はよりよいサービスや快適な環境を提供できる、もっと小規模なスペースに焦点を当てることになるだろう。

 ●クライアント、顧客、設備への近さ

 都市経済学者らによると、現代の都市が存在する理由は次の2つだ。(1)企業は他社や労働者との距離の近さから恩恵を受けており、賃金と利益の増加につながっている。(2)一部の快適な環境(高級な小売店やレストラン、専門的な医療施設、ライドシェアのようなサービスへの容易なアクセスなど)は規模のメリットがあり、人口密度の高い地域でしか利用できない。企業がハイブリッドあるいは完全な在宅勤務のモデルに移行すると、人口密度の低下により、他社に近いことのメリットが減少する可能性がある。

 リモートワークをする人が増えれば、クライアントや協働する人と物理的に近いことの重要性は低くなり、ビジネスの中心地にオフィスを構えることのメリットは減少するだろう。その一方で、快適な環境が近くにあることがより重要になるかもしれない。机に向かって仕事をするためではなく、同僚と交流するためにオフィスに行くことが多いのなら、レストランや公園に近いことがより重要になる。

 ●通勤パターンの変化

 以前はオフィスの立地を選ぶ際には、優秀な人材を確保できるかどうかが重要視されていた。今後はオフィスへの通勤が必ずしも頻繁ではなくなり、オフィスから遠く離れた場所に住む人が増えるため、重要な拠点には遠方からより多くの人材が集まる。

 このためオフィスの立地においては、近距離の通勤手段(地下鉄の駅など)へのアクセスは重要でなくなり、遠距離の交通手段(幹線道路や通勤鉄道の駅への近さなど)の価値が高まる。

 ●オフィスデザイン

 優秀な人材を惹きつけるには、オフィスと自宅との位置関係ではなく、彼らがキャリアに抱く願望との関係がますます重要になる。優秀な人材が出社することを選択する場合、より生産的に仕事をすることができ、自宅ではできない活動に集中できるオフィスに惹かれるだろう。その場合は、必要なスペースは少ないが、オフィスの立地とが重要になる。

 ●環境への配慮

 建造環境は自然環境に大きな影響を与えるため、不動産は企業のESG(環境・社会・ガバナンス)戦略において重要な役割を果たす。オフィスタワーを建設するには膨大な資源を消費し、暖房、冷房、電気の供給には日々資源が費やされている。

 企業が物理的なスペースの必要性を見直し、再評価する中、現在の危機はオフィススペースをより効率的に利用し始める絶好の機会かもしれない。たとえば、曜日別のハイブリッドシステム(火、水、木の3日間は全従業員が出社するなど)を選択している企業にとって、「オフ」の日の冷暖房の使用を減らすことによる環境フットプリントの削減効果は大きいだろう。

 ●コスト

 企業がオフィススペースを決定する際の最後の要因は、不動産保有者が契約の再交渉に応じる可能性がかつてなく高いことだ。つまり、これまで長期契約を結んでいた企業でも、オフィススペースの使い方を見直すことができるのだ。

 結論として、ほとんどのマネジャーは以前ほど広いオフィススペースを必要としていないことに気づくかもしれない。ビジネスの中心地に位置することの価値が下がるため、彼らが必要とするスペースがハイブリッドなワークスタイルに合わせてデザインされ、快適な環境や長距離交通機関に近い場所にあるほうが、従業員にとってよりよいものとなるだろう。


"Do You Really Need All that Office Space?" HBR.org, July 02, 2021.