教訓1
マトリックスを超える
やるべきことを把握し、それを実行するためにチームに権限を与えた幹部チームの話を、筆者らはいくつも聞いた。そのようなCEOたちは、ビジネスをより効果的に運営し、スピードを上げ、信頼を高めるためには、マネジャーがその妨げにならないようにして、顧客に最も近いチームにもっと自由を与える必要があることを認識していた。
メキシコのコカ・コーラ・フェムサのCEOジョン・サンタ・マリアは、「チームに実行する権限を与えつつ、新型コロナウイルス感染症や政府の措置による現地市場の急激な変化に対応できるだけの創造性を現場に持たせることを学んだ」と話す。
危機によって生まれたこうした組織的なエネルギーを維持しようとすると、CEOは恒久的な問題がより切実になることに気づく。どうすれば企業は、役員会議室だけでなく、従業員の日常生活や行動の中に息づく競争戦略を打ち立てることができるのか。
パンデミック前は、その答えは「マトリックス」だった。階層的なシステムの中で、上級幹部は従来のようにマイクロマネジメントする傾向があり、サイロをつくり、機能を現場から遠ざけていた。ヒエラルキーの中にいる人々は、「実行に関わる仕事は回避するもの」「よいキャリアは顧客との距離を広げ、CEOとの距離を詰めるものだ」とささやいていた。
マトリックス組織はスピードが遅く、柔軟性に欠ける。顧客や最前線の声をかき消し、リソースをサイロ化する。リーダーはチームに結果責任を負わせなければならない。しかし、そのために常に影響力を維持する必要はない。
パンデミック後の企業がマトリックスから脱却するため、F1チームにたとえて組織を再構築しているCEOもいる。パンデミック下で切迫感をつくり出したヒーローはドライバーであり、表彰台に立つのはマネジャーではなく彼らだ。レースの1周ごとが顧客体験で、勝つこともあれば負けることもある。ピットクルーは、周知の実践されているルーチンに従い、ドライバーと一体となってサポートする。そして、スピードも重要だ。
インドの大手フードデリバリープラットフォームのスウィギーでは、レストランのデリバリーチームのリーダーが「運転席」に座っている。彼らには適切なレストランのオーナーに参加させ、適切な消費者を引きつけ、デリバリードライバーのクルーを構築する責任がある。この3つのグループのニーズを満たし、最終的な目標である優れた顧客体験を提供するのは、チームリーダーの責務だ。
スウィギーでピットクルーの役割を果たすのが、ネット・プロモーター・システムのチームだ。彼らは、チームリーダーが日々のアンケートのフィードバックやデータを確認して、顧客を喜ばせ、欠点を解消するための短期的な行動と長期的な行動を決定する支援を行う。
「私たちのシステムは自由度が高く、それがスピードにつながっている。しかし、明らかな制約もあり、それがスピードとスケールをもたらす」と、スウィギーでCOOを務めるビベック・サンダーは言う。
F1チームの体系と行動を採用するには、上級幹部はチームに新たな自由度を与え、新しいレベルの信頼関係を築く必要があるため、大きな変化が求められることが多い。最初は不快に感じることがあるかもしれないが、会社全体が得る利益はそれに見合うものだ。