ライティングによる介入は、なぜ有効なのだろうか。

 ネガティブな経験について書くことがポジティブな効果をもたらすというのは、直感的ではないかもしれない。しかし、過去のネガティブな出来事や現在進行中の不安のストーリーを語ることで、認知資源が「解放される」という仮説もある。トラウマは脳組織にダメージを与えるが、感情的な経験を言葉にしながら、脳内で組織化される方法が変わるのではないかと示唆する研究もある。

 これは個人としても、また仕事でも重要なことだ。劇的なストレスと喪失感が広がっているいま、私たちは可能な限りサポートを求める必要がある。

 メンタルヘルスの研究者によれば、さまざまな業界で、組織のあらゆるレベルの従業員がメンタルヘルスに「著しい」重圧を抱え、なかでも不安と鬱症状の高まりが最も顕著に見られる。成人の鬱症状はパンデミックが始まって以来、3倍に増えている

 不況や人種的・経済的格差に直面して、恐怖心から、あるいは罪悪感から「ストレスやいら立ちを率直に語る気持ちになれない」人もいると、ハーバード・ビジネス・スクールの行動心理学者アシュレー・ウィランズは指摘する。ウィランズは最近、米国44州と88カ国のリモートワーカー4万4000人を対象に、今回のパンデミックが職場での態度や行動にどのような影響を与えているかを調査した。

 相対主義的なアプローチを取り、自分より悪い状況だと思う人々と比較することで乗り越えようとする人もいる。新型コロナウイルスの影響は、身体的、社会的、経済的にさまざまで、たとえば黒人とブラウン(褐色)のコミュニティは不釣り合いに苦しんでおり、仕事を持つ母親はストレスや精神的負担が特に大きいことがわかっている。

 収入を失う、愛する人を失う、ウェルビーイングを失うといった深刻な影響を受けた人は、それについて同僚と気軽に話したくないと思うかもしれない。そこまでの損失を経験しているわけではなく、最近はパーティや休暇を楽しみ始めたという人には共感してもらえないと、不安になるのだろう。

 しかし、声に出して表現することが難しくても、書くことによって発散できるかもしれない。

 不安定なこの海でどのような船を漕いでいても、私たちが経験していることを消化しようとしないのは、現代の最も深刻な世界的危機の一つによる影響を矮小化することでもある。

 癒しは、私たちのコレクティブ・ウェルネス(集合的な健康)にとって不可欠であり、エクスプレッシブ・ライティングは、教師などフルタイムで働く人々のウェルビーイングを増進するツールになることがわかっている。

 2020年7月にエミリー・ラウンド、マーク・ウェザレル、ビッキー・エルシー、マイケル A. スミスが発表した査読前の論文によると、3日連続でとりわけポジティブな経験について具体的に書くという「ポジティブなエクスプレッシブ・ライティング」は、書いた直後の「状態不安」を軽減しただけでなく、4週間後には仕事に関するウェルビーイングと仕事の満足度を高めた。

 エクスプレッシブ・ライティングが組織の成果に与える影響についてもさらなる研究が必要で、ライティングによって職場の仕事の質や創造性を高めることができるかもしれないと、研究者たちは示唆している。

「創造性はトラウマに対する人間の基本的な反応であり、自然の緊急防衛システムである」と、ルイーズ・デサルヴォはWriting as a Way of Healing(未訳)で書いている。この本はライティングを回復のツールとして使うことの有効性について、多数の科学的研究を引用している。

 科学的な根拠はある。では、この強力なツールを効果的に使うために、実際にどうすればいいのだろうか。