振り返るのではなく
前に進み続けるために

 13世紀のイスラム神秘主義の詩人ジャラール・ウッディーン・ルーミーは、「傷口からあなたの中に光が入る」と書いた。以来、ジークムント・フロイトやブレネー・ブラウンなどの思想家が、自分の弱さを受け入れるところに強さがあるという考えを広めてきた。書くことで自分の真実をさらけ出すと、自分ではどうにもならない状況の犠牲者ではなく、自分の人生の主人公であり続けることができる。

 意図的なエクスプレッシブ・ライティングの回復効果を私が初めて体験したのは、2008年の不況の最中だった。私は双子を妊娠していることがわかったばかりで、リストラされた配偶者と60平米の家で暮らしていた。

 その時に私が書いたコラム「レイオフ時代の愛」(「リセッション・ワイヤー」に掲載)は、自分が経験していることを受け止める手助けとなって、安心と解放をもたらした。数年後に癌の治療を受けた時は、つらい経験を猛烈に書き連ねて、無力感の中でも感情を保つことができた。

 もちろん、エクスプレッシブ・ライティングは万能薬ではけっしてない。まさにいま、多くの人がセラピーや従業員の健康管理の強化、政府の支援など、外部からの支援を切実に必要としている。それでもエクスプレッシブ・ライティングは、私たちが幾重もの喪失感と向き合うための身近なツールになる。

 パンデミックによるトラウマの中でも、同僚や愛する人、友人を失ったという明らかな喪失からは、「回復」することはないだろう。そして、回復が常にゴールというわけでもない。多くの著名な回想録を書いた人々が証言しているように、つらい経験について書くのは、過去に戻るためではなく、打ちのめされず前に進むためだ。

 考えや気持ちを書くことは、私たちを希望へと導くこともできる。「芸術の役割は、ありのままを伝えることだけではない──可能性を想像することだ」と、ベル・フックスは書いている。自分のパンデミックの物語を書くのは、記憶して、敬意を表し、目に見える形にして、証人となり、回復した自分を思い描くためだ。自分の心の奥底にある人間としての経験と存在の意味を、じっくり考えて見定めるために書くのだ。

 ライティングの伝道師である私は、出口のその先を目指す道を書くこともできると信じている。エクスプレッシブ・ライティングから生まれた文章術を使って、自分のパンデミック後の未来を描くことができる。未来志向のフリーライティングのために、たとえば次のようなヒントがある。

パンデミック後、日々の無力感が薄れてきた時、個人としてポジティブな変化を起こすために、具体的にどこで自分の力を発揮するか。チームとして、会社として、業界として、どうすればいいか。

パンデミック後の自分のビジョンに合わせて、個人や仕事の分野で変えていく小さな(または大きな)領域にはどのようなものがあるか。

パンデミックを通じて気づいたことが、あなたの残りの人生を(もっと簡単に、来年を)どのように変えるだろうか。

 出口を書くだけでなく、新しいところに踏み出す道を書いてみよう。

 私たちはいま、誰もが変化を経験している。自分のために書いた後は、同僚や家族や友人と、自分自身と、より深い本物の方法で再びつながるために、書いたものを選択的に共有するのもいいだろう。

 嬉しいことに、プロの著述家でなくても、自分の経験を理解して、癒しにつなげ、さらには成長し、回復し、修復し、刷新するために、ライティングを活用できる。あなたもペンを手に取って、書いてみよう。そこから何かが始まる。


"Writing Can Help Us Heal from Trauma," HBR.org, July 01, 2021.