成長と稼ぐ力が企業価値につながる。では、それらを追求する戦略策定の勘所とは何か。まず「成長」を追求する戦略として大きく3つの方向性がある。また、稼ぐ力を追求する戦略には、大きく2つの方向性がある

全社戦略を意識する重要性

 戦略論の全体構造を踏まえつつ、成長と稼ぐ力という戦略の要諦を軸にして戦略を考えるとは、具体的にどのようなプロセスであろうか。

 成長という観点からは、ミッションおよびビジョンが大きな羅針盤となる。すなわち、自社の存在意義や将来ありたい姿が明らかになっていることが、それへ向かって成長を意識できるようになるための第一歩となる。

 日本企業では、このミッションやビジョンがないか、あっても創業の精神や綱領のように一般論になっている場合が多い。そのため、企業の成長について、その究極的な行き先や進んでいく道筋の共通認識を持てず、そのため成長を強力に推進できないままになっているのである。

 それでも、いくつかの企業は、社会的な存在意義としてのミッション、ビジョン、およびバリューを簡潔かつ理解しやすく定め、これらをピラミッドの頂点として、全社戦略、事業戦略、機能戦略などへと連なっていく戦略の構成を実現しはじめている。

 ミッションやビジョンの基で成長を推進していく際は、具体的には、全社戦略が大切になる。成長する事業領域へのポジショニングを続けること、成長する事業領域への経営資源の配分を行っていくことなどによって、成長する事業から十分なキャッシュフローを生み続けていくことが鍵となる。

 しかし、日本企業、特に大企業では、事業部門による組織縦割り経営であるため、事業部門ごとの事業戦略はあるものの、経営者の意思を持ったトップダウンでの全社戦略が存在しないか、存在するとしても弱いものになってしまっている。端的に言えば、事業戦略はあっても全社戦略はない、という状況に伝統的に陥っているのである。

 日本市場が大きく成長していた時代においては、事業戦略があれば十分といえなくもなかった。一方、市場の大きな成長が期待できないばかりか、事業環境が速く大きく変化して、成長も一筋縄ではいかないこれからの時代には、全社戦略をしっかりと意識していかなければならない。