
成長には、現行の事業を継続するだけにとどまらず、事業ポートフォリオの見直しや入れ替えを積極的かつ能動的に行って、事業ポートフォリオの新陳代謝を図っていくことが不可欠である。第9回は、事業ポートフォリオ転換の要諦を解説し、日本企業がよく陥りがちな事業ポートフォリオの好ましくない4つの類型を紹介しよう。
事業ポートフォリオのマッピング
多くの企業は、複数の事業を運営しており、その構成を「事業ポートフォリオ」と呼ぶ。
各事業の状況を理解するうえでは、「成長」を表す売上高成長率を縦軸に、「稼ぐ力」を表す投下資本利益率(ROIC)を横軸にとって、それぞれの事業が創出するキャッシュフローの近似値となるEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization/利払前税引前償却前利益)を円の大きさとするマトリクスによってマッピングすると理解しやすい(図表9-1「事業ポートフォリオのマッピング」を参照)。
図表9-1 事業ポートフォリオのマッピング
そして、それぞれの事業が生み出すキャッシュフローの企業としての総和を最大限にまで大きく、かつ安定したものにするには、事業ごとにいかなる手を能動的に打っていくべきかを考えていく。これが事業ポートフォリオのマネジメントである。
この事業ポートフォリオのマッピングにおいて、横軸の基準値には全社ベースの加重平均資本コスト(WACC)、縦軸の基準値には全社ベースで目標とする売上高成長率や経済成長率としてのGDP成長率などを設定する。
ROICがWACCを上回っていれば企業価値を創造しているといえるのであった。このため、横軸では、それぞれの事業のROICをたとえば全社ベースのWACCと比較する。また、縦軸では、あるべき成長が実現できているかを比較する。
そして、この事業ポートフォリオのマッピングにおいて、図表9-1の象限①~④は、それぞれ次のように解釈できる。
①象限:成長も稼ぐ力も期待できない事業である。抜本的な構造改革、撤退、あるいは売却という見極めと対応が求められる事業である。
②象限:かつてのコア事業であることが多い。市場の大きな成長は見込めないものの自社のマーケットシェアが高いことなどによって大きな利益を稼いでおり、キャッシュを生み出してくれている、いわゆるキャッシュカウ事業である。さらなるコスト削減の徹底などによって事業の効率性を高めて稼ぐ力を向上し続け、事業からのキャッシュを収穫しきっていくべき事業でもある。
③象限:これからの新規事業であることが多い。事業構築の初期段階にあって成長力は高いが、稼ぐ力がいまだ低い状態にある。投資などによって成長を促しつつ、稼ぐ力を培いながら、しっかり育成していくべき事業である。
④象限:現在の成長と稼ぐ力を牽引するコア事業である。投資を継続して行うことによって成長を維持あるいはさらに推進しながら、競争優位性を高めるなどして、稼ぐ力をさらに高めていくべき事業である。
事業ポートフォリオのマネジメントでは、②象限において潤沢なキャッシュを生み出してくれているキャッシュカウ事業からのキャッシュを、③象限における新規事業や④象限におけるコア事業に振り向けて、それらを育成し推進していくことが大切である。もちろん、①象限における不振事業への対応も、キャッシュの社外流出や自社内の儲かっている事業からの社内利益補填の解消という観点からは大切になる。
なお、このような事業ポートフォリオのマネジメントができていれば、いわゆる「コングロマリットディスカウント」に陥るリスクも軽減できると考えられる。コングロマリットディスカウントとは、複数の異なる事業を行っている企業の企業価値が、それらの個々の事業が単業として営まれている場合の事業価値の単純な合計よりも小さくなるというものである。
その原因としては、さまざまなことが言われている。たとえば、多くの事業に対して、経営者が等しく意識を向けられない、経営資源の配分を適時かつ適切に行っていけない、企業としてあまりに異なるスキルを持ちきれない、などである。
それでも、アクティブな事業ポートフォリオのマネジメントを行えていれば、事業ポートフォリオのマップ上の事業それぞれについて経営者の意識は向けられやすい。経営資源の配分も是々非々で検討され、成長や稼ぐ力のため組織的なスキルの構築や展開も議論されているはずである。