裏切られた善意の声明
根深く残る権力構造

 2019年8月、米国有数の大企業を代表する180人以上のCEOが、画期的な声明を発表した。企業はもはや、他のステークホルダーを犠牲にして株主だけに尽くすことはできないと認めたのである。この発表は広く報じられ、ビジネスの新たな時代、すなわち従業員、環境、サプライヤー、コミュニティについて、より真剣に考慮する時代の到来を予感させた。

 ところが、その後1年も経たないうちに新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まると、これらの企業が従業員を解雇した割合は、声明に署名していない企業を20%上回った。また、救済活動への寄付、顧客に対する割引販売、コロナ関連製品への生産シフトを実行した割合は、その他の企業を下回った。その一方で、声明に署名した企業は、株の買い戻しや配当という形で20%多くの資本を株主に還元したのである。

 これらの企業が、善意の声明を掲げたにもかかわらず、いざという時にその約束を守らなかったことは明らかだ。