企業の再生を導いた
ステークホルダー中心主義
2020年6月、筆者はベスト・バイの会長として最後の取締役会に出席するためミネアポリスを訪れていた。ヘネピン通りを車で進んでいくと、左右に見える店は、皆シャッターを閉めている。ジョージ・フロイド氏の死亡事件が引き金となって起きた5月の暴動と抗議が、街中にいまだ生々しい傷跡を残していた。同じ頃にオーストラリア全土で森林火災が猛威を振るい、カリフォルニア州でも森林火災が発生した。その数カ月前には新型ウイルスが見つかり、世界中にパンデミックが拡がりつつあった。
こうした災害が起きる前から人々の間に広まりつつあったある認識を、2020年はいっそう強める一年となった。それが「ビジネスは社会から隔絶して存在しているわけではない」というものだ。新型コロナウイルス感染症の大流行が始まる前から、ビジネスリーダーの間で、それまでの考え方を変える人が次第に増えていた。すなわち、企業の唯一最大の目的は株主利益の最大化である、とするミルトン・フリードマンの主張した考え方を捨て去り、企業はすべてのステークホルダー──株主だけでなく従業員、顧客、仕入先、地元コミュニティ──に貢献すべきである、という考え方だ。
もちろん企業にとってカネを稼ぐのは至上命題ではある。だが、何のためにビジネスをしているのか、誰のためにビジネスをしているのか、という「パーパス」と「人」を重視するリーダーが増えてきたのである。