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人種差別に対抗するために、組織がダイバーシティに関する方針を打ち出したり、社内で研修プログラムを実施したりすることは珍しくなくなった。だが、組織の多様性が高まれば、おのずと偏見がなくなるわけではない。多様性を強制された反動から、従業員の間に障壁が生まれることさえある。組織として重要なのは、異なる集団間の接触を強制するのではなく、偶発的遭遇をもたらす環境を意図的に設計することだ。それは物理的なオフィス空間はもちろん、デジタル空間にも欠かせない。本稿では、インクルージョンを高めるための空間デザインについて論じる。


 この1年間にわたって、個人組織が人種差別をなくすために、さまざまな戦略が提案されてきた。いずれも重要でタイムリーな戦略だが、その実行に対する白人の反動は、さらなる人種的分断の種を蒔くおそれがある。

 実際、組織のヒエラルキーにおいてトップの座を占めることが多い白人男性は、ダイバーシティ(多様性)に関する方針やメッセージを脅威と受け止める可能性が高い。このことは、組織内の不平等をさらに拡大しかねない。

 これは新しい現象ではない。過去30年間にわたる829社のデータを分析した結果からは、マネジャーの行動を管理するためのダイバーシティプログラム(ダイバーシティ研修の義務化や不服申立制度の導入など)は、バイアスを軽減するのではなく、むしろ拡大させること、その結果として、意図したのとは正反対の結果をもたらす傾向があることが明らかになっている。

 このような反動に対して、組織に永続的な変化を起こしたいと考えるリーダーには、新たなツールが必要となる。

 現在の戦略は、主に人の気持ちや考え方を変えることに焦点を当てるものだ。しかし、最近の研究(筆者らの研究を含む)では、組織の物理的空間とデジタル空間が強力な役割を果たせるにもかかわらず、多くの場合で見落とされていることが示されている。

 本稿では、リーダーが職場やプロセスをどのように設計すれば、異なる人種間のポジティブな接触を円滑化し、そうすることによってダイバーシティとインクルージョン(包摂)のポジティブな連鎖をどう生み出せるかを論じる。