
新型コロナウイルスのパンデミックが収束に向かうにつれて、コロナ前のようにフルタイムのオフィス勤務を再開する動きが見られる。しかし、その決断が正しいとは言い切れない。従業員の多くが在宅勤務の継続を望む中、優秀な人材が他社に流出するリスクを伴うからだ。本稿では、筆者らが実施した調査を通じて、コロナ後の労働市場をひも解いていく。
ゴールドマン・サックスやJPモルガンをはじめ、最近、一部の企業が従業員をフルタイムのオフィス勤務に戻す動きを見せている。直接会って交流するほうがコラボレーションに適しており、自宅では生産性が下がることが理由だという。
もっとも、非協調的な人を排除するという裏の理由もあるようだ。あるシニアマネジャーは「ゴールドマンは、オフィスに何日出社しなければならないかを最重視するような人は雇いたくないのだ」と明かした。
こうした措置を取る企業は、2013年に在宅勤務を禁止した後、密かに撤回したことでメディアに非難された、ヤフーの二の舞になる恐れがある。
フルタイムのオフィス復帰を望む企業にとっての大きな課題は、労働市場が並外れて逼迫していることだ。従業員の雇用もリテンション(定着)も非常に困難だ。優秀な人材は転職を望めば複数のオファーを受けることができ、多くの人が在宅勤務を「強く」好んでいる。
筆者らが米国人5000人を対象に毎月行っている調査によると、従業員は平均して週に2.5日の在宅勤務を望んでいる。パンデミックが長期化し、多くの人がリモートでの人間関係に慣れてきたことで、在宅勤務と通勤時間の短縮に対する願望が強まっているのだ。
また、新型コロナウイルスのデルタ変異体が急速に拡大していることも、速やかなフルタイムのオフィス復帰を阻んでいる
実際に6月と7月の調査では、フルタイムのオフィス復帰を命じられた場合、別の仕事を探し始めるか、すぐに辞めると答えた米国の従業員は、40%以上であった。ゴールドマン・サックスが先頃、新入社員に対する30%の大幅な昇給を発表したのも驚きではない。2021年中に従業員をフルタイムでオフィスに復帰させたいなら、そのためのコストを支払わなければならない。