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新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受けて、多くの企業がデジタル化に本格的に着手し始めた。そのプロセスを加速して、デジタル・トランスフォーメーションの恩恵に浴するためには、どうすればよいのか。新たに導入したデジタルツールを従業員が使いこなせるかどうか、すなわち「利用の複雑性」を職務や部署単位で的確に見極めることが重要だと筆者らは指摘する。本稿では、それを確実に行い、デジタル・トランスフォーメーションを加速させるための3つの方法を紹介する。


 新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、多くの企業は予想外の短期集中でデジタライゼーション(デジタル化)について学ばざるをえなくなった。

 ハードウェアやインフラストラクチャーに始まり、業務プロセスのアップデートや企業文化の活性化に至るまで、さまざまな面で大きな進歩があったことは事実だが、多くの企業はある問題に直面している。それは、しばしばその場しのぎで一貫性のないデジタル化の取り組みを統合し、持続可能なものにするためにどうすればよいのか、という問題だ。

 ビジネスの継続が目的にせよ、デジタルイノベーションの実現が目的にせよ、デジタル化を推進するマネジャーにとって重要な問いがある。デジタル化のプロセスを加速させ、アウトカムの予測可能性を高める方法はないのだろうか。

 この点は、中小企業には特に大きな問題だ。大企業と異なり、中小企業はやみくもに手を出すわけにはいかない。デジタル化の寵児としてもてはやされる大企業は「速く失敗する」アプローチを採用することが多いが、中小企業にはそのような経済的余裕がなく、失敗が許されない場合もある。

 本稿では、筆者らの研究結果に基づき、デジタル化のプロジェクトを加速させ、あらゆる規模の企業が真のデジタル・トランスフォーメーションの恩恵に浴せるようにする3つの方法を紹介する。

 それら3つの方法は「利用の複雑性」という概念を土台に考案した。この概念は、新しいデジタルツールに対処することが、利用者にとってどの程度難しいかを把握するためのものだ。マネジャーは利用の複雑性を理解することで、デジタル化の取り組みを計画的に実践し、有効なデジタル・トランスフォーメーションを実現することができる。

筆者らの研究について

 筆者らの知見は、欧州のある銀行で2年間にわたり実施した研究を基にしている。この銀行が自社の中核システムを入れ替えた時、筆者らは同銀行の融資・住宅ローン成約後のデータ処理を行う部門で観察調査を行った。その部門内のさまざまなチームが新しいシステムの導入をどのように進めているか、そして、その試みがどのくらい成功しているかを調べた。

 筆者らは、この部門内のさまざまな組織階層の60人以上の人たちにインタビュー調査を行い、日々の仕事ぶりも緊密に観察した。まず、30年間用いてきた旧システムでの業務ルーチンを明らかにすることから出発し、最後は、新しいシステムをうまく使いこなせるようになったと部門の幹部たちが判断する段階まで観察を続けた。

 筆者らが特に興味を持ったのは、新しいシステムに素早く効率的に対応できた部署と、長期間にわたり苦しんだ部署の違いだ。対応に苦労した部署の経験を分析すると、利用の複雑性を生む要因と有効な対応策が明らかになった。