マネジャーにとっての意味
利用の複雑性を意識することで、マネジャーは有益なインサイトを得ることができる。そのインサイトはデジタル化を加速させるために役立ち、プロセス、プロジェクト、人に与える影響に関する重要な知見をもたらすことが期待できる。
まず、プロセスへの影響については、システム依存度と意味依存度(複雑性を高める大きな要因である)が高い場合、プロセスを文書化・モデル化する方法をアップデートしなくてはならない。マネジャーは、デジタル・トランスフォーメーションを実行するために大きな努力を払うべき領域を把握したければ、ある領域におけるタスクの依存度を把握する必要がある(方法(1))。
プロジェクトへの影響はどうだろうか。利用の複雑性を理解すれば、デジタル・トランスフォーメーションをどのように段階を追って進めればよいかについて、新しい視点を得ることができる。それにより、プロジェクトの計画と実施が容易になる(方法(2))。
最後に、人に与える影響に関しては、筆者らの研究により、画一的なアプローチではうまくいかないことがわかっている。それも無理はない。デジタル・トランスフォーメーションの取り組みは、社内の領域ごとの利用の複雑性に合わせて熟慮の上で導入する必要がある(方法(3))。
この点は、新しいシステムに関する研修の内容(ツールの使い方を学ぶか、新しいツールが働き方に及ぼす影響について学ぶか)、研修の形式(講義形式か、自己学習か、社会的学習か)、研修のタイミング(事前にすべての研修を行うか、導入後も軌道に乗るまで研修を継続するか)などと関係してくる。
すなわち、利用の複雑性を意識することにより、マネジャーは本稿で紹介した3つの方法を用いてデジタル・トランスフォーメーションのプロセスを設計し、デジタル化による恩恵を早期に獲得することが可能になるのだ。
"How to Speed Up Your Digital Transformation," HBR.org, August 25, 2021.