
新型コロナウイルス・ワクチンの接種率が伸び悩む中、従業員の接種義務化を検討する企業が増加し、実際に踏み切った会社も多い。ワクチン接種が進むことで、企業がさまざまな恩恵を受けられることは確かだ。ただし、あらゆる企業が義務化を推進すべきとは限らない。本稿では、自社にとって最善の結論を導くうえで有効な7つの行動を紹介する。
米国企業は、職場の安全性を向上させ、従業員と家族と地域コミュニティを守るために、従業員が新型コロナウイルスのワクチンを接種することを奨励してきた。最近では、デルタ変異体の流行と、ワクチン接種率の伸び悩みにより、従業員の接種を促進することの重要性がいっそう高まっている。
2021年を迎えて以降、米国企業は従業員がワクチンを接種しやすくすることに力を入れてきた。勤務スケジュールの柔軟性を高めたり、ワクチン休暇を与えたり、ささやかな金銭的報酬を提供したり、職場で接種を受けられるようにしたりした。
ところが、このような取り組みにもかかわらず、本稿執筆時点で米国の成人のおよそ3分の1が、いまだにワクチン接種を済ませていない。
そこで、企業は従業員の接種をうながすために、ほかの手立てを検討し始めた。しばしば議論されている2つの手段――未接種の従業員が支払う医療保険料に上乗せ料金を課すことと、ワクチン接種を促進する金銭的インセンティブを設けること――は、事務管理上の負担が大きく、コストも膨れ上がり、あまり大きな効果がない可能性が高い。
そのため、従業員へのワクチン接種の義務付けに踏み切る企業が増えている。こうした動きに追随すべきかを検討し始めている企業も多い。筆者らの会社が最近行った調査に回答した961社の米国企業のうち、21%はすでにワクチン接種を義務化しており、31%は年内の義務化を計画中あるいは検討中だった。これらの企業の従業員数は合計で970万人に上る。
接種義務化を検討中の企業がはっきりと認識しておくべきなのは、その決定により、短期の生産性と利益だけでなく、長期的には人材を引きつけ、維持できるかどうかも左右されるという点だ。それらを念頭に置いて、本稿では以下の7つの行動を提案したい。
(1)職場での感染リスクを評価する
最初の頃、新型コロナウイルスの感染は、職場よりも社交の場、たとえばレストランやフィットネスセンターやカフェや宗教施設で起きるケースが多かった。しかし、医療機関、食品加工施設、刑務所、老人ホームなど、さまざまな職場でも感染が広がり、死者も生じてきた。
それでも、あらゆる雇用主は、そこで働く人々のために安全な職場を確保し、顧客あるいは奉仕対象者たちの命と健康を守らなくてはならない。その点、ワクチン接種により最も弱い人たちを守ることができるという強力な証拠があったり、明確なビジネス上もしくは公衆衛生上のメリットがあることが判明していたりすれば、従業員は接種の義務化を受け入れる可能性が高くなる。
職場で感染が広がるリスクが比較的小さい場合でも、従業員のワクチン接種を義務化すれば、従業員と顧客の安心感を高める効果がある。企業としては、出張の機会が多い人など、特にリスクの高い従業員に接種を義務付けてもよい。一方、ワクチン接種を義務付けている得意先を訪れるために、自社も従業員にワクチン接種を義務付ける企業もあるかもしれない。
逆に、顧客と直接対面する機会のないリモートワーカーだけの職場では、ワクチン接種の義務化はそれほど説得力を持たないだろう。すでに従業員のワクチン接種率が高い職場も同様だ。