(2)接種義務化が従業員に及ぼす影響を評価する

 現在の米国の労働市場は、人手不足による売り手市場だ。従業員のワクチン接種を義務化した場合、それに反対する従業員が競合他社に流出するのではないか、という不安を述べる企業もある。

 言うまでもないことだが、この点を検討する際、企業は業界ごとの事情を考慮すべきだ。たとえば、老人ホーム業界では接種を義務化している施設が多い。このような業界では、接種義務化に反発した従業員がライバル企業に移籍する可能性は比較的小さいと言えるだろう。

 一方、ワクチン接種の義務化により、従業員の接種率が高い職場では、そうでない職場に比べて、新型コロナウイルスへの感染を恐れる人たちが出勤の再開に前向きになったり、新たな就職先を選んだりするケースが多いかもしれない。実際、最近の世論調査によれば、労働者の半数以上は、職場の安全性を高めるためにワクチン接種の義務化に賛成している。

 労働組合に加入している従業員がいる企業は、接種の義務化に踏み切る場合、労働者の代表と話し合う必要がある。米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)多くの労働組合は接種義務化への支持を表明しているが、一部の労働組合は詳細な条件について協議したいと述べている。

(3)接種義務化の経済的影響を計算する

 従業員のワクチン接種率が高い企業は、新型コロナウイルス感染症で重症化する従業員が比較的少なく、医療費支出も抑えられる。最近のある推計によると、2021年6月と7月に米国で新型コロナウイルス感染症による入院治療のために費やされた医療費のうち25億ドルは、ワクチンを接種していれば防げた入院によるものだったという。

 従業員のワクチン接種を義務付ける企業は、接種状況を把握するための事務コストを負担すべきだ。その際、従業員の医療情報のプライバシーを守るための措置も忘れてはならない。産業保健サービスを利用して接種状況を把握する企業もあれば、人材関連サービス企業などにアウトソーシングする企業もあるだろう。

(4)接種ルールを実施しやすいように明確な指針と手続きを定める

 接種の義務化に踏み切る企業は、誰を義務化の対象にするか、どのワクチンを認めるか、どのような接種証明を要求するか、国内の一部の層だけがブースター接種の対象になった場合にブースター接種も義務付けるか、いかなるケースで接種を免除するか(そして免除を希望する従業員に定期的に再申請を求めるか)といった点について、シンプルで明確な方針を示さなくてはならない。

 筆者らの会社が最近実施した調査によれば、62%の企業は、従業員に接種証明(米国疾病対策センター〈CDC〉のワクチン接種記録カードなど)の提示を求めるという。

 雇用機会均等委員会(EEOC)は、米国の企業に対して、宗教上・医療上の理由での接種免除を認めるよう求めている。しかし、ワクチン未接種者により、職場の安全が損なわれたり、「過度の負担」を生み出したりする場合は、未接種の従業員を異動させたり、雇用を打ち切ったりすることを認めている。

 従業員のワクチン接種を義務化した企業は、職場に新型コロナウイルスが持ち込まれるリスクを小さくするために、未接種の従業員に頻繁な検査を求めてもよいだろう。

 たとえば、週に1回もしくは2回、自宅で抗原検査を行わせて、陽性だった人は出社させず、PCR検査を受けさせるものとする。ただし、検査を義務付ける場合は、会社が検査費用を負担することにし、それを前提に予算を確保すべきだ(米国の連邦法では、検査を義務付けた企業が検査費用を負担することを求めていないが、ほとんどの州の州法ではそれを求めている)。

 また、接種義務化の方針を頻繁に再検討することも望ましい。それにより、新しい情報を絶えず入手し続けるようになると期待できるからだ。