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コロナ禍がもたらしたネガティブな影響は多岐にわたるが、希望の光を挙げるとすれば、職場でメンタルヘルスの問題が特別視されなくなったことだろう。しかし、その重要性が認識されていても、従業員にカウンセリングやアプリを提供したり、メンタルヘルスデーを実施したりするだけでは足りない。企業にいま求められているのは、メンタルヘルスを個人の問題として対処するのではなく、組織としてメンタルヘルスをサポートできる企業文化の構築に取り組むことだ。本稿では、最新調査の結果から、コロナ禍前と渦中の変化を読み解き、企業が本当の意味で従業員を支援するために何をすべきか論じる。


 2019年10月、筆者らは職場のメンタルヘルスに関する調査結果を発表した。当時は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、私たちの生活がひっくり返ることになるとは思いもしなかった。

 さらに、米国ではジョージ・フロイドをはじめ、黒人が警察官に殺される事件が相次ぎ、アジア・太平洋諸国系米国人(AAPI)に対する暴力が拡大した。山林火災が頻発し、政治的動揺も続いた。ほかにも大きなストレス要因が次から次へと発生し、私たちのコレクティブメンタルヘルスに対するダメージは、ますます大きくなっていった。

 このような破壊的状況下で多くの人がトラウマを抱える中、希望の光といえるのは、職場におけるメンタルヘルスの問題が特別なことだとは見なされなくなった点だ。

 2019年は、メンタルヘルスの問題が職場で拡大していることを企業が認識し、そのスティグマ(負の烙印)に対処する必要性、そしてメンタルヘルスの問題とDEI、すなわちダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂)との関連の高まりに気づき始めた時期だった。

 2020年は、メンタルヘルスのサポートは「あったらよいもの」から、文字通り企業経営に「なくてはならないもの」になった。

 そして2021年、職場がメンタルヘルスに与える影響に対する意識が高まったこと、それがDEIと重なる部分に早急に対処する必要性が高まったことから、その重要性はいっそう増している。

 企業は、メンタルヘルスデーやメンタルヘルスウィークを実施したり、週4日勤務制を導入したり、カウンセリングサービスやアプリを提供したりして対応してきたが、これらのイニシアティブだけでは不十分だ。

 従業員は持続可能かつ精神的に健全な職場を必要としており、その期待に応えるには、ワークカルチャーの改革に本気で取り組む必要がある。

 単に最新のアプリを提供したり、「ウェルビーイング」や「メンタルフィットネス」といった婉曲表現を使ったりするだけでは足りない。企業に求められているのは、言葉に見合った行動だ。

 マインド・シェア・パートナーズが、クアルトリクスおよびサービスナウと共同でまとめた『職場におけるメンタルヘルス報告書 2021年版』は、米国の職場におけるメンタルヘルスとスティグマ、そしてワークカルチャーについて、コロナ禍前と渦中の状態を比較する貴重な資料となっている。

 これは2019年版のフォローアップ調査で、当時と同じ指標を用いながら、コロナ禍と人種的トラウマ、出社再開の影響に関する質問項目を追加した。また、2020年4月以降の不完全な調査を補う役割を果たすものでもある。

 最新版の調査対象となったのは、2019年版と同じく、フルタイムの仕事に就く米国の成人1500人だ。回答者の構成は、人種や民族のバックグラウンド、ジェンダーアイデンティティ、LGBTQ+(性的少数者)コミュニティのメンバー、世代的な隔たり、子どもの主たるケアギバー、職務階層、その他の要因にわたって、現実のデモグラフィック属性を大きく反映したものになっている。

 本稿では、今回の調査で明らかになった結果の概要を紹介し、従業員のメンタルヘルスをサポートするために企業が何をすべきかに関する、筆者らの助言を提供する。