企業は何を提供すべきか
企業は、メンタルヘルスはもはや個人の問題ではなく、集団としての優先課題だと見なす方向にシフトしなくてはならない。
職場要因が関係していることを考えれば、メンタルヘルスの問題はあくまで個人の責任だとして、セルフケアで対処させたり、メンタルヘルスデーのような漠然とした取り組みを行ったり、福利厚生の範囲で済ませたりすべきものではない。企業が真に進歩を遂げるには何が必要か、以下に挙げる。
●企業文化を変革する
企業文化を変えるには、トップダウンとボトムアップの両方からアプローチすることが欠かせない。職場のメンタルヘルスも同じだ。
2019年に筆者らが提言した内容は、いまも変わらない。マインド・シェア・パートナーズの「精神的に健全な職場のエコシステムの枠組み」(Ecosystem of a Mentally Healthy Workplace Framework)は、すべての人に果たすべき役割があることを具体的に示している。まずは、リーダーやマネジャーから始めることだ。
リーダーは、定期的にパルスサーベイを実施したり、明確な当事者意識を喚起したりするアカウンタビリティメカニズムにより、メンタルヘルスを組織の優先課題として扱わなければならない。
単に人事部門に任せておくだけではいけない。リーダーがパーソナルな(個人的な)経験を打ち明け、メンタルヘルスの問題を理解して、その重要性を主張するアライとしての役割を果たし、透明性とオープンネス(開放性)のある環境づくりを推進すべきである。
スティグマのない文化がなければ、メンタルヘルスに関してどれだけ最高の福利厚生を用意しても、従業員は不安や恥の意識から、その利用率が上昇することはないだろう。
組織はリーダーとマネジャー、そして全従業員を対象に、職場のメンタルヘルスに対処する方法や難しい会話をする方法、互いに支援し合う職場環境をつくる方法について、研修を実施しなくてはならない。
マネジャーは直属の部下の変化に真っ先に気づき、サポートするという重要な役割を担うことが多い。このため、心理的安全性のある環境をつくることがカギとなる。メンタルヘルスに関する方針や慣習、自社文化として適切に対処できる福利厚生などのリソースを用意し、繰り返し周知徹底を図らなくてはならない。
DEIに投資して、従業員のメンタルヘルスをサポートし、問題を抱えるデモグラフィック属性の中でも、特に交差する部分に対処することも極めて重要だ。
なかでも、黒人とAAPIの従業員は、構造的な人種差別と暴力のトラウマによって、とりわけ厳しい打撃を受けてきた。子どものケアを主に担っている労働者の場合(多くの場合は母親である)、学校閉鎖とそれによって生じた諸問題のために、燃え尽きに直面してきた。
筆者らの調査では、従業員が職場で困難な社会的・政治的トピックについて話せる状況を整えることも、精神的に健全な組織文化の一部であることが明らかになっている。
草の根レベルでは、メンタルヘルスに関わる従業員リソースグループ(ERG)や類似のグループを組織したり、メンタルヘルスを率先して擁護したり、同僚の話に耳を傾けるイニシアティブを始めたりできるように従業員を促し、その実現を後押しすべきだ。