●より持続可能な働き方を推進する

 企業はいま、自社の働き方を改革し、より持続可能な方向へと変化させるべき時を迎えている。

 そこで不可欠な要素は、柔軟性を認めることだ。多くの労働者がコロナ禍のリモートワークで、こうした柔軟性を初めて経験した。調査の回答者は、会社の出社再開計画が、みずからのメンタルヘルスにネガティブな影響を与えていると答えている。

 その最大の理由として挙げられたのは、出社勤務とリモートワークの選択に関する会社の方針(41%)と、その方針に基づくワークライフバランスや柔軟性の欠如だ(37%)。

 従業員の自己決定権を拡大し、境界線を設定して、コミュニケーションや連絡対応、緊急事態に関する規範をつくることは、精神的に健全な文化の構築に向けて大いに役立つ。

 たとえば、プロフェッショナルサービスファームでは、クライアントの期限を守るために長時間労働が必要となるかもしれないが、社内の期限については、状況に合わせて順応性を持たせることができる。

 ほかにも、勤務時間以外のメールのやり取りを禁止したり、じゃまされずに仕事に集中できる時間を設定したり、会議を入れない日をつくったりすることもできるだろう。

 リーダーは、こうした精神的に健全な行動をモデルに、従業員が自分自身も同じことができると心から感じられるようにしなければならない。

 マネジャーと直属の部下が話し合い、それぞれの仕事のやり方と好みを明確にすることは、インクルージョン(包摂)をサポートすることにつながる。企業は、従業員がメンタルヘルスを健全な状態に維持しつつ、自分の仕事をきちんと完遂できるように、必要なリソースと幅広い柔軟性をチームに与える必要がある。

 ●より深いつながりを構築する

 最後に、つながりのある組織文化を築くことがカギとなる。相手の状況を確認するために定期的なチェックインを行い、「調子はどうか」と質問する時間を設けたり、健全な職場の人間関係を維持したり、チーム間で有意義な交流を図ったり、その方法は多岐にわたる。

 企業はまた、組織全体でつながりを持つ機会を提供するとともに、マネジャーと直属の部下とが1対1でより深い対話ができる状況をこれまで以上に追求しなくてはならない。「調子はどうか」という質問には、「どうすれば手助けできるか」という言葉が常に伴わなくてはならない。特に、マネジャーレベルではそうだ。

 共感オーセンティシティ(自分らしくあること)の重要性は、どれだけ言っても、過剰になることはない。

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 現在進んでいる大規模な社会変化は、メンタルヘルスを取り巻く企業文化と従業員の認識を変えてきた。企業は投資を増やし始めたものの、従業員の期待値も上がっている。

 未来の職場のメンタルヘルスには、企業文化の変革が求められている。そのためには、自分の弱さをさらけ出し、互いに共感し会える環境と、持続可能な仕事のやり方が欠かせない。

 コロナ禍を機に組織文化を変革するという旅路は、まだ始まったばかりだ。この機会を意識的に活かして、2019年当時の状態に大急ぎで戻ろうとするのではなく、新たな働き方をつくり出さなくてはならない。どのようなことが可能か、想像力を膨らませようではないか。


"It's a New Era for Mental Health at Work," HBR.org, October 04, 2021.