
環境問題に積極的に取り組む企業がますます増えているが、気候変動リスクを自社の財務リスクとして認識している企業はどれだけあるだろうか。カーボンプライシングの導入が進み、将来的に炭素価格が上昇していけば、企業の利益はあっというまに大きな損失に変わる。いかなる企業も、未来の二酸化炭素排出量について「カーボン・ショートポジション」であり、簿外債務として存在しているからだ。本稿では、エクソンモービルやLCC大手ライアンエアーを例に挙げながら、このカーボン・ショートポジションを管理する方法を論じる。
政府の介入と二酸化炭素(CO2)排出量取引市場の発展により、カーボンプライシング(炭素価格制度)は、ようやく世界各地で避けて通れないものになりつつある。
この流れを強調するかのように、米議会でも複数の法案の一部として炭素価格が提案されてきたが、特定のセクターや地域で排出量の上限を定めるといったメカニズムによっても、同様の効果が期待できる。
さまざまな経済モデルや欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)の経験から予測すると、短期ベースでは炭素価格は1トンにつき50~100ドルとなり、そこから上昇していく可能性が高い。1トン当たり100ドルとすれば、世界経済の5%を占めることになる。これは巨大な数字だ。
だが、その責任の所在はどこにあるのか。世界中の企業だ。
環境問題に取り組む企業にとって悲しむべきジョークは、気候変動対策は常に「次のCEOの仕事」とされることだ。
しかし、いかなる企業も未来のCO2排出量について、いわば「カーボン・ショートポジション」(炭素の売り持ち)であり、いますぐにでもこの簿外債務の存在を認識しなくてはならない。
このショートポジションは、自社の事業活動から生じる炭素排出(専門用語でいうスコープ1と2)と、自社のプロダクトやサービスから生じる炭素排出(スコープ3)から成る。ほとんどの企業は、この債務に気づいていない。こうした排出量の価格は現在ゼロであり、昨年もゼロであったのだから、将来もゼロだと考えるのも当然かもしれない。
企業は、この根本的な「インプットコスト」はけっして変わらないことを前提に、炭素の先物市場に関与しているということもできる。しかし、コモディティ市場で仕事をする人なら誰でも知っているように、アンカバードポジションは利益をあっというまに著しい損失に変えかねない。
アル・ゴア元米副大統領が共同設立した投資会社ジェネレーション・インベストメント・マネジメントのパートナー、ニコラス・ククリカは次のように語っている。
「企業は、自社の『カーボンエクスポージャー』(リスクにさらされている資産の割合)を管理する必要がある。企業がいますぐ、こうしたリスクを軽減するための取り組みを始めれば、まだ間に合う。企業の経営幹部は『もっと安価なテクノロジー』の登場を待ちたいと思うかもしれない。しかし、現在のように炭素価格が比較的安い状況であっても、経済的に理にかなうプロジェクトがあるはずだ」