企業にとってどのような意味を持つのか、エクソンモービルの例を挙げて考えてみたい。
同社では最近、アクティビスト(物言う株主)として企業に変革を働きかける小規模投資会社のエンジン・ナンバーワンによって、3人の取締役が「環境派」に交代させられた。現在のエネルギー転換に対処するうえでは、企業戦略と資本配分を根本的に見直す必要があるという認識が欠けていたことが理由だ。
エクソンモービルは、なぜここまで投資家の怒りを買ってしまったのだろうか。
2020年、エクソンモービルのCO2「相当物」排出量(同社は炭素以外にも、メタンなどの温室効果ガスを排出している)は、1億1200万メトリックトンに上った。1トン当たり100ドルとして計算すると、年間110億ドルの債務を生み出していることになる。
同社の過去5年間の利益は年平均80億ドル程度であるため、このままではたちまち経営破綻してしまう。このことは、取締役会に排出量の問題を真剣に考えさせる、よい方法だった。
さらにエクソンモービルでは、スコープ3の排出量が約6億メトリックトンあり、金額にすると年間600億ドルの債務を生み出していることになる。このうち、どの程度を小売価格に転嫁できるか明らかではないが、炭素価格の上昇を考えれば、今後、状況は悪化する一方だろう。
その一方で、すでに行動を起こしている企業もある。たとえば、欧州の格安航空(LCC)大手であるライアンエアーも、その一つだ。
どの航空会社もそうであるように、ライアンエアーも「人類の存亡に関わる排出者」だ。つまり、乗客を運ぶという中核事業のためには化石燃料を使うしかなく、それに代わる燃料はすぐには入手できない。だが、ライアンエアーが2021年5月17日に行った2021会計年度の決算発表からは、未来へのビジョンが伝わってくる。
同社の2020年の炭素排出量は、1億5000万ユーロの債務に相当する。当時と比べて、EUの排出量1トン当たりの市場価格は2倍に上昇している。しかし、あるアナリストの見積もりによれば、ライアンエアーはそのコストが利益の10%に達しないように、すでにCO2オプション(事前に定めた価格で売買する権利)を購入し、エクスポージャーをヘッジしている。
ライアンエアーは、燃費効率のよい航空機を揃えて競争優位を確立することを目指し、オペレーション効率の改善に力を注いでいる。伝統的な航空会社ではなくライアンエアーを選ぶことで、環境フットプリント(CO2を含め環境に負荷を与える物質すべての排出量)を50%削減できると主張する。同社は、炭素価格が上昇すれば、価格競争力とブランディングによって、彼らから市場シェアを奪うことができると考えているのだ。
ライアンエアーのマイケル・オレアリーCEOは、業績発表の席で「2050年までに排出量ゼロを達成しつつ、燃料消費を引き続き削減し、ライアンエアーによる空の旅をいっそうグリーンにする」ことを目指すと語った。同社は、気候変動リスクを財務リスクとして管理しているのだ。