
2015年にジャック・ドーシーが復帰するまで、ツイッターの業績は必ずしも順調とは言えなかった。フェイスブックやスナップチャットの急成長を目の当たりにして、戦略的方向性を見失いつつあったからだ。ドーシーはその苦境を乗り越えるために、戦略策定にある理論を応用した。クレイトン・クリステンセンが提唱した「ジョブ理論」である。イノベーションやマーケティングで活用されることが多いが、本稿ではジョブ理論を戦略に取り入れる方法を紹介する。
ツイッターのジャック・ドーシーCEOは2021年7月、第2四半期決算発表の電話会議の冒頭で、証券アナリストに同社の戦略を次のように説明した。
「私たちは3つのコア・ジョブに焦点を当てた機能やサービスを連携させ、エコシステムを構築していきます。すなわち、何が起きているかを伝えるニュース、議論と会話、人々が報酬を得るための支援です」
ドーシーの言う「3つのコア・ジョブ」は、「ジョブ理論」(jobs to be done)の概念に言及したものだ。ジョブ理論は、顧客にとって本当に重要なものは何かという観点からビジネスを定義するアプローチである。
フェイスブックやティックトック、ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズなど、多様な顔ぶれと競争しているツイッターにとって、こうした戦略の集中は不可欠だ。そして、実際に素晴らしい成果につなげている。
デイリーアクティブユーザー(DAU)は2018年末の1億2600万人からいまや2億人を超え、年間収益は2018年の30億ドル強から2021年は40億ドルを超えるペースで伸びている。株価(9月20日)はこの5年で170%上昇し、フェイスブックの185%にも引けを取らない。
最初からずっと順調だったわけではない。2015年10月にドーシーがCEOに返り咲いてからツイッター再生の取り組みが本格的に始まり、ジョブ理論は重要なツールになった。
当時、同社はまだ進化の途上にあり、戦略の焦点は不明瞭であった。フェイスブックが驚異的な規模とペースでユーザー数を伸ばしており、スナップチャットはそれに対抗するソーシャルネットワークとして登場した新星だった。
2015年、ツイッターは収益22億ドルに対して5億2100万ドルの純損失を計上し、株式は新規株式公開(IPO)価格の26ドルを下回る水準で取引されていた。 2019年8月に開催されたイノサイトCEOサミットで、ドーシーは次のよう振り返っている。
「私たちは同業他社がやっていることすべてに、過剰に反応してしまった。自分たちのパーパスを明確に理解しておらず、そのことが本当に大きな痛手となった」(ツイッターは筆者らイノサイトのクライアントではなく、2019年のCEOサミットは無報酬の講演者として登壇した)
ドーシーと彼のチームは、すべてのリーダーが答えなければならない、最も奥深い質問の1つと向き合った──自分たちはどのようなビジネスをしているのか。
組織が自社のビジネスをどのように定義するかということは、その組織が行うほぼすべてに影響を与える。どのような顧客にサービスを提供するか。どのように提供するか。誰と競争するか。どのような外部要因を考慮するか、それらの要因をどのように解釈するか。どのような戦略を考え、追求するか。どのようにイノベーションを起こすのか。
ただし、この奥深い質問に対する答えは、過剰に制約され、近視眼的になり、周囲の世界で実際に起きている状況を曖昧にすることがあまりに多い。さらに、誤った枠組みでとらえようとすると、新たな脅威や機会を完全に見逃しかねない。
そのような答えに陥るのは、えてして内向きの特性で自分たちの組織を定義している時だ。これは販売する製品(「私たちは保険事業を行っている」「私たちは自動車事業を行っている」)や、ビジネスモデル(「私たちはオンラインマーケットプレイスを展開している」「私たちはレンタル事業を行っている」)、ケイパビリティ(「私たちはソフトウェア開発事業を行っている」)といった特性である。
必要なのは、すべての企業の成功の核心となる観点から、すなわち「顧客のために価値を創出する能力」という観点から、ビジネスを定義することだ。そして、それを実現するのが「ジョブ理論」アプローチである。
ジョブは片付けるべき用事(「車を修理する」「喉の痛みを和らげる」)であり、目標(「マラソンを走る」「大学に入る」)だ。ジョブが発生すると、パイプの水漏れを修理する人やベビーシッターを雇うことなど、そのジョブを実践するために「雇う」商品やサービス、経験を求める動機が生まれる。
この考え方は戦略的方向性を定めるためにも使うことができ、組織のアイデンティティを形成する方法として特に価値がある。