●インパクトを増幅させる
米国の世論は、以前よりも公的機関を信頼しなくなる一方で、企業に対する信頼を強めている。このような状況で、CEOはその地位を利用して、それまで以上に大きな社会変革を起こせる可能性がある。ただし、一人ひとりのリーダーが自社の信頼性と影響力を高めることも忘れてはならない。
そのためには、関心と専門知識を持ついくつかの領域に活動を絞るべきだ。その取り組みは、自社の信念とこれまでの行動に沿ったものであり、エコシステム内の他の人たちからも支持されている必要がある。
また、リーダーたちが大きな影響力を振るえるのは、すでに政治的二極化が進んでいる問題よりも、いま生じつつある問題だ。逆に、すでに激しい論争が交わされて久しいテーマに反射的にのめり込めばリスクを伴い、自社にダメージを及ぼしかねない。自社内の問題を解決できていない場合は、なおさらだ。
・事実に基づいた対話を促進する
自社が行う情報発信は、独立した機関によって検証済みの事実を根拠にすることを忘れてはならない。加えて、事実を重んじる独立したジャーナリズムを支援することも重要だ。このような行動は従業員の間で、さらには社会全体で偽情報が浸透することを防ぐ効果がある。
また、偽情報を拡散させていると指摘される企業とのビジネスを取りやめることもできる。2020年、偽情報の拡散を防ぐための取り組みが遅いとしてフェイスブックが批判された時には、多くの企業が広告を引き揚げた。
・コミュニティの包摂性を高めるための触媒になる
リーダーは、包摂的なマーケティング手法に投資したり、異なるグループの交流を深めるための場やイベントをつくったりすることで、対立を和らげ、異なるグループ間の理解を増進できる。
昨今、欧米の民主主義国では、過半数を大きく上回る人たちが、社会の分断にうんざりしていると述べている。CEOは、そうした人たちの結束に対する欲求に働き掛けるために、対外的なコミュニケーションと行動を通じて異なるグループの交流を推進すればよい。それを実践したのが、デンマークの放送局であるTV2だ。同局は、社会の結束を高めることをみずからの公的イメージの主要な要素と位置付けたのだ。
・国際的な懸け橋をかける
ビジネスのグローバル化がますます進んでいる。それに伴い、企業は国境の向こう側の顧客やサプライヤーや投資家と経済的な関係を結ぶことが多くなった。リーダーはそうした国際的活動を通じて、世界の多様な地域を結びつけ、ステークホルダーのコミュニティを成長させ、幅広い視点を取り入れるようにすべきだ。
マイクロソフトは、アフリカにおけるテクノロジー教育プログラムにボランティアを送り込んでいる。それを通じて、さまざまな国の人たちが共通の経験をし、それぞれの地域との関係を強化することが狙いだ。こうした国境を越えた交流は、新たに頭をもたげつつある分極化、すなわち地政学的分断とナショナリズムへの強力な対抗手段になりうる。
分極化の高まりがすぐに解消されることはないだろう。そして、その状況は企業にとって深刻な悪影響を及ぼす可能性がある。その点では、社会問題に対して自社の立場を表明しようと、表明しまいと関係ない。
しかし、CEOは慎重に戦略的に行動することで、自社が利害と信頼性と影響力を持っている問題や状況に関して、まずは自社の内部で、さらには広いコミュニティで、分極化の弊害を和らげることができる。
"How Business Leaders Can Reduce Polarization," HBR.org, October 08, 2021.