
政治的分極化が進む中、企業リーダーは難しい判断を迫られている。議論を呼ぶ社会問題に対して、自社の立場を鮮明にしても沈黙を貫いても、従業員や顧客の反発を招く可能性があるからだ。この難題を解決するためには、意見を表明すべきか否かという二者択一の発想から抜け出し、自分たちが分断の橋渡し役になることを目指して、戦略的に行動することが重要である。本稿では、そのための3つの指針と具体策を提示する。
政治的分極化の拡大は、企業に深刻な悪影響を及ぼす可能性がある。意見が大きく分かれる問題で立場を鮮明にする企業は、自社と対立する意見を持つ顧客のロイヤルティが低下しかねない。社内の対立が強まったり、ボイコットにより売上げが落ち込んだりするケースもある。
加えて、企業が社会問題に対する姿勢を明らかにすることで、むしろ社会の緊張を高めてしまう場合も少なからずある。たとえば、2018年にフロリダ州パークランドの高校で銃乱射事件が起きたことを受けて、デルタ航空は銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の会員向け割引を廃止した。この措置による直接影響を受けた人はわずかだったが、これをきっかけに銃規制をめぐる対立がいっそう激化し、同社の措置に反発した州議会議員たちがジェット燃料税控除を廃止する事態を招いた。
しかし、だからといって、社会問題に関して行動を起こさないほうが得策とは限らない。分極化は、メッセージを発信しない企業にも悪影響を及ぼす。顧客ロイヤルティが低下したり、偽情報が拡散して市場の予測可能性が悪化したり、反発を買うことを恐れるあまりチャンスをふいにする結果を招いたりしかねないのだ。
沈黙を貫けば、ある社会問題において片方の立場を暗黙に支持していると受け止められる場合もある。たとえば、2017年に米国政府がイスラム圏のいくつかの国の出身者の入国を禁止する措置を打ち出した際、配車サービス大手のウーバーは、その措置に対する反対を表明しなかったとして、大掛かりなボイコットの標的になった。沈黙しているのはこの政策を支持しているのと同じだと、批判派は考えたのである。
こうしたリスクを増幅させているのが、企業に対して「コーポレート・ステーツマンシップ」を要求する昨今の風潮だ。要するに、企業も社会問題や政治問題でもっと目に見える社会的役割を果たすべきだと考えられるようになり始めているのだ。意見対立の激しい社会問題について自社の立場を表明すべきか否かという点では、CEOたちの考え方もおのずとほぼ半々に分かれている。
強く主張を訴えても、沈黙を貫いても、裏目に出る可能性がある。では、CEOはどのような行動を取れば、分極化を緩和して、このような環境で自社を守ることができるのか。