分断の橋渡しをする

 立場を鮮明にするか、沈黙を貫くか、という二者択一を迫られていると思っているとすれば、それは誤った思い込みにすぎない。それよりも、CEOは分極化が激しさを増している文脈を理解して、その状況を是正するために努力したほうがよい。その際は、戦略的に行動することが重要だ。

 ●まず、社内の問題を解決する

 リーダーは対外的な意見表明を行う前に、まず社内の分極化を是正すべきだ。それをやることで偽善だと言われるのを避けられ、対外的に影響力を及ぼす土台を強化することができる。

 職場は、異なる集団に属する人たちがやり取りを繰り返し、協力し合う余地のある社会的空間として、現存する数少ない場である。私たちは「孤独なボウリング」をするようになったかもしれないが、職場ではいまも他の集団と一緒に働いている。

 私たちは日々、社会的・政治的思想を必ずしも共有しているとは限らない同僚たちと関わり、共通のミッションの達成に向けてともに努力している。そうした活動を通じて、違いを超越したポジティブな結び付きを――社会全体では見られなくなっているかもしれない結び付きを――育んでいるのだ。これは社会的な一体感を生む源泉になりうるという点において、それ自体に価値がある行動と言える。

 しかも、激しい分断が存在する環境は従業員の感情に悪影響を及ぼし、ひいては仕事のパフォーマンスにも害を与えかねない。2016年の調査によると、労働者の24%は、職場に政治的な分断が存在する環境では、仕事の成果が下がると答えている。仕事の質が落ちたり、生産性が低下したりするというのだ。そうした悪影響を解消し、ダメージを回避するためには、リーダーが社内の対立に橋渡しを行い、職場で協力を育むことが有効だ。

 ・己を知る

 従業員の言葉にもっと耳を傾けて、彼らの経歴や関心、価値観を知るように努めよう。なかでも、さまざまな文化的・地理的グループの人たちへの理解を深めることが重要だ。リーダーは円卓会議や匿名アンケートを実施するなどして、従業員からの率直な言葉とフィードバックを引き出せばよい。

 リーダーがチームと組織を理解すれば、従業員が共通して抱いている懸念材料に対処しやすくなる。ソフトウェア企業のベースキャンプでは、従業員が職場で社会的・政治的問題を話題にすることを禁止したところ、およそ30%の従業員が辞めてしまったという。同社のリーダー層が従業員の求めていることをより明確に理解できていれば、この事態は避けられただろう。

 ・一貫した方針で臨む

 社会問題の関わり方についての基本方針を明確に示そう。そして、その基本方針が自社のこれまでの方針や価値観やパーパスと矛盾しないようにすることが大切だ。

 明確に方針を示し、そこからぶれることがなければ、混乱と不適切な行動を減らせるだけでなく、従業員の失望を買うことも防げる。社会問題に対して自社がもっと行動すべきだとか、こんなに行動を起こすべきではないなどと従業員が不満を抱いたり、自社の方針が一貫しないと疑問を持ったりすることを避けられるのだ。

 スターバックスは2020年、スタッフが職場で性的マイノリティ支援のピンバッジ着用を推奨する一方で、黒人の権利擁護を訴えるブラック・ライブズ・マター運動を支持する服装を禁じているとして、大きな批判を浴びた。最終的に、同社はこの禁止措置を撤回した。

 ・共通点をつくり出す

 異なるグループが接点を持つことを組織の重要な価値と位置づけよう。そのためには、政治と無関係の共通のアイデンティティを育めばよい。社会奉仕活動を通じて結束を強める取り組みは、実のある交流を生み出すうえで強力な手段になりうる。

 たとえば、米国赤十字社ロサンゼルス支部は、バハイ教、イスラム教、キリスト教、仏教など、さまざまな信仰を持つメンバーが、献血の多様性をともに高めて、地域の献血キャンペーンを促進するという共通の目標について話し合うプログラムを立ち上げた

 ・健全な交流を育む

 従業員同士が互いに敬意を抱き、率直に意見を交わせる(時には対立する意見をぶつけ合う)ことができるように、オープンな議論を行うための明確なルールと規範を策定しよう。

 リーダーは異なるグループが交流するためのオープンな場を設け、偽情報に目を光らせ、礼節を保った包摂的な振る舞いを促すことにより、有意義なコミュニケーションを後押しできる。たとえば、シスコは、さまざまな難しい社会問題を話し合うための社員フォーラムを設けた時、彼らが互いに敬意を持って意見交換を行う指針になるように、発言の許容度に関する指針を導入した。

 ・隠れた多数派に向き合う

 穏健な考え方の持ち主や、自分の意見を表明していない人が居心地の悪い思いをしないようにすることが大切だ。2018年の調査によれば、米国人の67%は「疲弊した多数派」だという。政治論争に疲れていて、そうした論争で自分たちが置き去りにされていると感じているのだ。このような人たちは、政治的言動が極めて活発な環境に身を置くと、自分がその場で歓迎されていないと感じかねない。

 スターバックスは2015年、スタッフと人種問題について話し合おうと来店客に呼び掛けて、批判を浴びた。多くのスタッフは、職場でそのような会話をすることに居心地の悪さを感じていたが、それを拒むことはできないと思ったのだ。「そうした話し合いは必要だが、あのようなやり方で行うべきではなかった」と、ハワード・シュルツCEO(当時)はのちに述べている

 こうした従業員が自分の立場を表明したり、ある意見を持っているかのように装ったりすることを強いられずに済むように、リーダーは安全を感じられて、互いに敬意を抱くことができる環境をつくるべきだ。