こうした観点から、筆者は自身のベスト・バイでの仕事およびそれ以外の仕事へのアプローチを形成してきた。そこには、今日のビジネスリーダーにとって極めて重要な3つのステップがあると考えている。
●個人のパーパスを見つける
まず、すべての仕事は意義深いものにできるという信念を持っているならば、リーダーであるあなた自身がすでに、個人として明確なパーパスを持っているはずだ。なぜ自分は働くのか、時間をかけて、じっくりと答えを出そう。
あなたが心の奥底から真に望んでいることは何だろうか。何があなたにエネルギーと喜びを与えているか、すなわちあなたを動かすものは何かを考えることから始めるのがよい。
たとえば、筆者自身が数年前、自分を見つめ直した末にたどり着いた結論は、筆者のモチベーションが周囲の人々にポジティブな変化をもたらすこと、そして筆者が築いてきた基盤を活用することで、世界にポジティブな変化をもたらすことであるというものだった。
だからこそ筆者はいま、ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭を執り、シニアエグゼクティブのコーチやメンターを務め、本を執筆しているのである。
●従業員に自分自身のパーパスを見つけるよう促す
次に、リーダーにとって同じように重要なのは、すべての従業員にこうした内省を勧め、その結果を周囲の人々と共有してもらうことである。
たとえば、ベスト・バイでは、従業員が定期的に自分の働く意義を見つめ直すことを奨励している。筆者がCEOを務めていた時、従業員の答えから伝わってくる寛大さに、いつも心を動かされていた。ほかの誰かのために善をなすことが、必ず含まれていたのだ。
会社の親睦会で、個人のパーパスを語り合う時間を設けた時も、ほぼ同じことを聞いた。この姿勢は、とてつもなく大きな力を発揮する。
一例を挙げよう。フロリダにあるベスト・バイの店舗で働いていた2人の店員は、個人のパーパスの強い意識に突き動かされて「恐竜外科医」になったエピソードだ。
小さな男の子がしょんぼりとした様子で、母親に連れられてやってきた。以前、その店で買ったお気に入りのティラノサウルスのおもちゃを壊してしまったという。
2人の店員はすぐに恐竜を受け取ると、カウンターの後ろで「手術」を始めた。そして救命の様子を実況しながら、こっそりと新品に取り換えた。数分後には「怪我が治った」ティラノサウルスが、男の子の手に戻った。
もし誰かの生活にポジティブな変化をもたらしたいという明確な目的意識を持っていなかったら、少年と母親を代わりのおもちゃの棚に案内するのが関の山だっただろう。しかし、この2人の店員は小さな男の子の笑顔を取り戻したのだ。
ビジネスリーダーは、同僚や部下に対して、個人のパーパスを深く考えるよう促すだけでなく、それぞれのモチベーションを理解する必要がある。
筆者は、ベスト・バイのエグゼクティブチームのメンバーが、それぞれ何に突き動かされ、自分の人生という歴史の中で、仕事をどのように位置づけているのかを知りたいと考えていた。そこで四半期ごとに定期開催するリトリートのディナーの席で、こう尋ねた。
「あなたはどのような人生を歩んできましたか。あなたを動かすものは何ですか。あなたの個人としてのパーパスは、いまの仕事とどのように結びついていますか」
ディナーが進むにつれ、私たちは皆、それぞれが単なる経営幹部ではなく、全人格的な存在であり、素晴らしい部分もあれば複雑な部分もある人間だということを学んだ。また、全員がほぼ例外なく、人生のパーパスを共有していることがわかった。それはすなわち、「人々の生活にポジティブな変化を起こす」というものだ。
心温まるちょっとしたいい話のように聞こえるかもしれないが、これがベスト・バイにとって決定的な転機になった。この時の発見で、企業のパーパスを定義するというプロジェクトの方向性が明確になった。ベスト・バイを世界に善をもたらす存在にすることが、私たちの願いだとわかったのだ。
従業員と顧客に愛され、パートナーを尊重し、この世界を大切に守り、それを基盤として株主に報いる企業をつくりたいのだと、全員が共有した。