6つのC
最初の3つはケイパビリティ(capability)、信頼性(credibility)、つながる力(connectivity)である。
●ケイパビリティ
これは特定の仕事や役割を遂行する能力だけでなく、コンピテンシーも含む。オペレーション、マーケティング、財務などの専門知識のように、分野や選好によって異なる部分もある。イグナチオの新たな大志とキャリアには、ラテン語と神学の修得が必要不可欠であり、自分の半分の年齢の学生たちと一緒に勉学に励んだ。
これらは「最低限」満たすべきコンピテンシーであり、仕事を遂行し維持するために必要な「ハード」スキルだ。たとえば、ビジネスの分野でキャリアを追求する人なら、会計の知識を必要とする。
ほかにも、どのようなリーダー職においてもますます重視される基本的なケイパビリティがある。鋭敏な自己認識、感情の自己コントロール、意欲、共感、社会・政治への意識、インスパイア型のリーダーシップ、チームワーク、影響力、問題や対立の解決などだ。これらは主に感情的知性と社会的知性に基づくコンピテンシーであり、自分自身、および他者との人間関係を適切に管理する能力に関連する。
イグナチオ自身、仲間とともに初級の必須カリキュラムを必死に学びながらも、長期的な成功のカギとなるのは、こうした「ソフト」スキルの修得であることを確信していた。実際、いまも多くの人々が世界中で実践している霊操は、「己を克服し、無秩序な執着の影響を受けた判断を下すことがないよう、自分の生活を律する」ための取り組みである。
心理学者のダニエル・ゴールマンが、1995年にベストセラーとなったEmotional Intelligence(邦訳『EQ こころの知能指数』)で広く知らしめたように、これらのケイパビリティはIQよりも重要で、シニアリーダーを差別化する圧倒的に重要なコンピテンシーであることが、研究によって確証的に示されている。
●信頼性
よい評判(あなたがオフィスやズームを退出した後で、あなたについて周囲は何を言うのか)も重要だ。まず必要なのは、成果を示す確固たる実績だ。
イグナチオが苦い経験を通じてこのことを知ったのは、聖職者となる前に霊操を授けたために、2度投獄された時だ。その後、彼は正規の教育を受けるだけでなく、最高水準の学術的な卓越性を仲間たちと追求しようと決心し、サラマンカからパリ大学へと進んだ。当時のパリ大学は最高峰の高等教育機関の一つであり、世界中から最も優秀な人材を引き付けていた。
学業と仕事の経験は、その人の信頼性を高める。この部分では懸命に努力しなくてはならない。
そして、経営学者ピーター・ドラッカーによれば、自身の強みと情熱を大事にする人も卓越性を手にする。あらゆる人や物がつながり合う今日の世界では、1度クリックや友達申請をするだけで、新しい雇用主やクライアントや顧客にアクセスでき、誰もがリモートでのつながりや仕事に慣れている。自分の得意なこと、好きなこと、他者から金銭的対価を得るに値することを実践するのが、現在ではいっそう容易になった。直接的な交流範囲や地理的な制限がなくなったからだ。
筆者はキャリアの初期、母国アルゼンチンで地元の会社に勤め、次に欧州で勤務した。その後、現代的な通信手段の登場とともに母国へと戻り、プロフェッショナルサービス会社に勤め、頻繁に出張しながら世界中で仕事をしてきた。現在は独立し、ほとんど自宅にいながら楽しく仕事をし(時折の出張はあるが)、世界各地のクライアントとともに深く関心を持てるプロジェクトに携わっている。
信頼性を支えるもう一つの柱は、独立性だ。知的誠実さを保ち、現実および認識上の、あらゆる利害対立の可能性を取り除く必要がある。
何年も前、親しい友人からこう言われた。エグゼクティブサーチ会社のパートナーでいる限り、人材に関するソートリーダーとして十分な信頼を得ることはけっしてない――。愛する会社への関与を徐々に減らし、やがては決別しなければならないことを筆者は悟った。難しい決断だったが、最終的にははるかに多くの自由と独立性と信頼を得ることになった。
●つながる力
これは新たなチャンスを生み出し、自分の仕事を広げ、最高の人材から学ぶことを伴う。
自分の人脈を大々的に広げるほうがよい時期は当然ある。無職の時や、現職に不満で新しい職を探している時などだ。これは秩序立った方法で行うことをお勧めしたい。職探しに役立つつながりを100人リストアップし(自分を雇う可能性のある人と、自分の情報源となる人の両方を含める)、接触する計画を練ろう。詳しい方法はこちらの論考で説明している。
しかし通常時には、もっと的を絞ったアプローチがよいだろう。自分の仕事を広げて新たなチャンスをつくるために、1つか最大2つのネットワークに焦点を当てよう。
筆者の場合、数十年間は主に、42カ国に展開するエゴンゼンダーの69カ所のオフィスを通じて人脈形成に取り組んできた。その後、少しずつだが確固たる意志を持って、ハーバード・ビジネス・スクールでの人脈形成へと移行し、定期的に重要なつながりを見直し、緊密な関係を保つよう努めている。
こうしたつながりは、ソーシャルメディア上のやり取りよりも深いものでなくてはならない。ほとんど誰とでも瞬時に、電子的につながれるこの時代には、フェイスブックやツイッター、インスタグラムやその他のオンライン活動で時間を無駄にしやすい。だが、リンクトインの戦略的な活用は別として、これらのプラットフォームが持続的かつ有意義な職業的つながりの構築に役立つことはほとんどない。
筆者が知る最も優れたリーダーたちは、誰であれ最も重要なつながりに向けて、書くことと話すことの両方に膨大な時間を使っている。
およそ500年前、イグナチオはこの点でも卓越していた。彼の手書きの手紙は受取人に届くまで数カ月を要することもあったが、歴史家はアジアから南米までさまざまな場所で7000点近い書簡を回収している。
これら最初の3つのCは、互いに強く補強し合い、強力な好循環を生む。つながる力はチャンスを生み、それが自分のケイパビリティをさらに向上させる。それによって自分の信頼性が高まり、よりよいつながりを通じて新たな可能性が開かれる、といった具合だ。