企業は何をすべきか
互いに支え合う健全な文化を醸成したいなら、「家族的」なメンタリティを促進するのではなく、従業員をサポートして価値をもたらす行動を取り、仕組みを整えることに集中しよう。
たとえば、あなたの組織をスポーツのチームやトライブ(部族)として考えてみる。そうすれば、共感、集団性、帰属意識、共通の価値と目標を維持する一方で、この関係の取引的性格を尊重したパフォーマンス中心の文化を描き出すことができる。よりバランスの取れた文化を推進するには、以下のことが大切だ。
・優れた業績を定義し、パーパスに焦点を当てる
チームを形成する時や新入社員研修では、優れた業績やパーパスに関する話から「家族」の概念を切り離す必要がある。仕事を成功させるために何を期待しているのかということ、仕事とプライベートの間には明確な境界線があることを従業員に伝えよう。
新人研修の期間中に仕事上の期待を定義して、チェックインミーティングや1対1の面談でそのフォローを行う。マネジャーは1対1の面談の機会を活用して、従業員のパフォーマンスレベルを評価し、ワークライフバランスの問題があったら対処すべきである。仕事と私生活の境界線があいまいになってきたら、それを率直に伝えて、何を改善できるかを話し合おう。
マネジャー自身の焦点も、家族的な文化を中心とした「運命共同体」から、「同じパーパスの共有」へと変えるべきである。研究によると、パーパスが定義されると従業員の忠誠心が高まり、特に企業のパーパスと本人のパーパスが重なり合う時、エンゲージメントも強化される。
大切なのは、パーパスを明確に定義して、それを伝えることである。あなたの組織は何を達成しようとしているのか。そこにたどり着くために、従業員はどんな役割を担うのか。共通のパーパスがあれば、みなが同じ方向を向くことができるだろう。
・明確な境界線を設定する
方針があいまいだと、誤解の余地が増える。勤務時間に関する期待と残業について、従業員が正しく理解できるようにしよう。従業員の努力をサポートするとともに、休暇あるいは有給休暇の取得を推奨するばかりか、それを期待していると伝えるべきだ。
チーム内でカレンダーを共有し、全員がそこに自分の有給休暇や新しい休暇のアイデアを書き込めるようにする。従業員は自分が何かを主張して、それが在職期間中に推進されるのを見たら、不安なく権利を主張できるようになる。マネジャーは自身が英気を養い、趣味や興味を追求するために休暇を取得し、休みを取りやすい流れをつくるべきだ。従業員はそれを見て、安心して同じことができるようになるだろう。
仕事に押しつぶされそうになっていて、もはやパフォーマンスの期待に応えられそうにない従業員に対しては、彼らがサポートを得て再び軌道に乗るためにどのような選択肢があるかを明確に示そう。休暇を取る、チームメンバーが手助けをして対応可能な仕事量にする、優先順位をつけ直す、などが考えられる。
・一時的かつ仕事上の関係であることを互いに受け入れる
従業員と雇用者の関係を現実的にとらえ、それが取引関係であることを忘れないようにしよう。一生、同じ会社でキャリアを過ごす人はほとんどいないし、それで何の不都合もない。
企業が成長すれば、それに伴い必要な役割も増えていく。いかなる企業でも、従業員に成長の十分な機会を用意できなければ、彼らは組織を離れる。あるいは、企業がその従業員のスキルや経験をもはや必要としなくなるかもしれない。
この想定は、新人研修の時から率直に伝えよう。従業員が退職を決断しても、彼らがあなたの会社で働くのを望まなくなったことに腹を立てるべきではない。それまでの貢献を認め、敬意を示そう。また、スキルが必要とされなくなった従業員には、社内や他の場所でふさわしいポジションを見つけるための手助けを申し出よう。
家族の絆は人を拘束することがある。何であれ、拘束は成長にとって理想的ではない。本稿で挙げたことを実践すれば、職場を「家族」と呼ぶ必要はなくなるだろう。
"The Toxic Effects of Branding Your Workplace a "Family"," HBR.org, October 27, 2021.