家族的な文化は従業員にいかなる害を及ぼすのか

 雇用者は、生産的で高業績を上げる従業員を求めている。それはしばしば、従業員同士が互いにうまく協力して成果上げることを意味する。ここに「家族的」文化や帰属意識を付け加えることに、一見すると悪意はない。しかし、最高のパフォーマンスを期待しながら家族的な関係を育もうとしても、それが従業員自身の成功につながることはほとんどない。

 ●個人とプロフェッショナルの境界線がぼやけ始める

「家族」が意味するところは、人によって異なることを理解すべきだ。誰もが同僚と深いレベルでつながりたいわけではないし、ましてや組織に依存したいわけでもない。プロフェッショナルとして働く場面では、仕事以外の私生活の詳細を明かしたくはないだろう。

 しかし、職場が「家族」になると、私生活が格好の話題となる。組織が全体の利益のために、社会化を促進しようとするからだ。

 研究によると、ビジネスに家族のメタファーを用いて、同僚を同僚としてではなくきょうだいと見なす組織では、前向きで、モチベーションやモラール(士気)が上がりやすい文化が醸成されるという。従業員は会社に愛着を抱くようになり、組織内の対立や意見の相違が減る。ただし、上司(父母と見なされる)との関係に緊張が生じることを恐れて、それがどのような情報であっても、質問されたら答えなければならないと感じるようになる。

 バーチャルな環境やハイブリッドな環境において、とりわけ大半の従業員にリモートワークの経験がなかった企業では問題がより複雑になる。

 研究によると、マネジャーは直属の部下のことが「見えない」状態では、部下が本当に仕事をしているとなかなか信じられない。すると、部下の仕事の開始時間と終了時間を調べ、さらには就業時間中に何をしているかをずっと追い始める(要するにマイクロマネジメントを始める)。仕事の結果よりも仕事量を重視する文化がここに加われば、従業員本人にしか意味をなさない情報まで知る権利があると、雇用者は思うようになるだろう。

 ●肥大化した忠誠心は害をなす

 家族が困っている時や、あなたの深い関与を必要としている時、迷わず力を貸すのではないか。少なくとも、家族の関係はそういうものだと思われている。

 しかし、それを仕事の環境に持ち込むと忠誠心は曲解され、職務を遂行するためには義務や責任を超えて何でもすべきだ、という期待に変わる。ロンドン・ビジネススクール名誉教授のロブ・ゴーフィーと、IEビジネススクール客員教授のガレス・ジョーンズによる共著The Character of a Corporation(未訳)によると、家族的な企業文化では、必要があれば従業員は喜んで同僚を手助けし、「頼まれる前に」極めて献身的な支援を申し出ることさえある。

 その反面、忠誠心が強すぎる人は、職を失わないために非倫理的行為に関与しやすく、雇用者に都合よく利用される傾向があることを、数多くの実例や研究が示している。たとえば、本来の職務とは無関係なプロジェクトや仕事のために理不尽な残業を頼まれたり、企業(すなわち家族)の最善の利益を口実に隠ぺいに関わったりする。運命共同体なのだから、あなたも自分の役割を果たしなさい、というわけだ。

 そのようなメンタリティで仕事をしていれば、従業員がバーンアウト(燃え尽き)して、パフォーマンスや生産性が落ちるのは時間の問題だ。マネジャーや人事部と自分の失敗について話し合うことになり、自分は役割を果たせていないと認識するようになる。雇用者がこれを放置すると、バーンアウトが常態化し、従業員が消耗して生産性を失い、最終的には収益に悪影響が出るような環境を醸成しかねない。

 ●従業員が都合よく利用される力関係を生む

 家族的な企業文化を推進する場合、雇用者が親に、従業員が子どもになるのだろうか。すべての人が自分の親やきょうだいと良好な関係にあるわけではなく、家族の力関係に由来する感情は、歯止めがなければ、すぐに仕事上の関係に反映されるようになる。

 また、こうした力関係の下では、権利を主張したり、自身の枠を超えた仕事に挑戦したりすることなどできないと従業員は考えるようになる(通常、親が決定し、子どもは命令に従うものだからだ)。すると、仕事の成功のために期待されていることよりも人格や既存の力関係を優先してしまう。

 また、従業員を解雇する時や、建設的なフィードバックをする時にも問題が生じる。どちらも「家族的」文化においては、ほぼ間違いなく個人攻撃に感じられる。私たちは家族をクビにしないし、家族に業績改善プログラムを課したりしないからだ。

 しかし、従業員と雇用者の関係は本来、一時的なものであり、いつかは終わりを迎える。したがって、雇用者と従業員の関係を家族になぞらえるのは、絆が永遠に続くとほのめかすことになる。

 また、結束の強い同僚の間で不正行為を隠すリスクも生じる。私たちは家族の秘密をそうそう漏らしたりはしないだろう。研究によると、「家族的な文化」の中で働く従業員は、加害者に親密な絆を感じて、不正行為の報告を怠ることがよくある。加害者にダメージが及ぶことを恐れて、同僚は沈黙を守ることでそこに加担するのだ。