
コロナ禍によって、消費者の価値観や目的意識が大きく変化したことが、アクセンチュアの「グローバル消費者調査」から明らかになった。このパラダイムシフトをビジネスチャンスに変えるには、3つの条件を備えた顧客中心のビジネスモデルに変革していく必要がある。その具体的なプロセスや変革要素について、ナイキの事例を交えながらアクセンチュアの3氏が解説する。
5つの価値観を軸に「消費者のパラダイムシフト」が起こっている
──アクセンチュアが毎年実施している「グローバル消費者調査」は今回、コロナ禍2年目での調査となりましたが、どのような変化が見て取れますか。
小林 一言で言えば、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まってからの18カ月間で、消費者の価値観や目的意識が大きく変化しました。
世界22カ国、2万5000人以上の消費者の50%が、パンデミックを機にみずからの目的意識を見直し、人生において何が重要かを根本的に考え直したと回答しています。これは「消費者のパラダイムシフト」といっていいほどの変化です。
購買の意思決定も大きく変化しました。企業への期待は、価格と品質から、健康や安全、製品がつくられた背景などへ大きくシフトしています。このように、みずからの新たな価値観に対して企業が最大限配慮することを期待する消費者を、アクセンチュアでは「Reimagined Consumers」(リイマジンド・コンシューマー)と呼んでいます。

アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ
マネジング・ディレクター
Reimagined Consumersの割合は、グローバルで50%です。一方、パンデミックを経ても変わっていない伝統的な消費者が17%、どちらともいえない消費者が33%います。パンデミックに伴うロックダウン(都市封鎖)など行動規制や私権の制限が強かった国々のほうが人々の価値観の変化は大きく、規制や制限の強い国ではReimagined Consumersの割合が51%、規制の緩やかな国は38%でした。
Reimagined Consumersは今後、各国で多数派となっていくことが予測されます。このパラダイムシフトに対応するためには、企業は真に顧客中心のビジネスモデルへと変革していくことが求められます。
──購買の意思決定では、どのような価値観を重視するようになっているのでしょうか。
松下 伝統的な消費者の購買では価格と品質が重視され、意思決定要因の51%を占める一方、Reimagined Consumersではその比率が40%にまで下がります。そして、Reimagined Consumersは次の5つの価値観に対する企業の配慮を求めています。
1つ目は「健康と安全」(Health and safety)、2つ目は「パーソナルケア」(Service and personal care)で、これはインタラクションの活性化を通じた個のニーズの充足を意味します。
3つ目は、オンラインかオフラインかを問わず、顧客の消費活動をシームレスにつないでいく「簡便性と利便性」(Ease and convenience)、4つ目は企業活動や製品がサステナビリティやコミュニティに寄与しているかといった「製品製造の背景」(Product origin)、そして5つ目が、企業が誠実な行動をしているか、その行動が自身の価値観と一致しているかといった「信頼と評判」(Trust and reputation)です。
──パンデミックに伴う行動規制が強い国と緩い国では、変化に違いが見られるとのことでしたが、日本はどうなのでしょうか。
石原 日本におけるReimagined Consumersの割合は26%と諸外国に比べると低く、どちらとも言えない消費者が52%と多数派を占めています。明確な変化まで認識されていないものの、意識の変化は今後、グローバルで加速することが予測され、日本でも早晩、Reimagined Consumersが主流化すると私たちは見ています。
そうした状況を踏まえると、日本企業は国内消費者の変化に先手を打って顧客中心のビジネスモデルへと変革することで、グローバルな変化に対応していくことが喫緊の課題といえると思います。
──世代による意識変化の違いは見受けられますか。
石原 日本での調査結果をもとに申し上げますと、Reimagined Consumersの割合は、18〜24歳が31%、25〜34歳が30%で、若い世代のほうが意識の変化が顕著となっています。一方、55〜64歳で25%、65歳以上が22%と35歳以上のすべての年齢層でReimagined Consumersの割合が20%を超えており、全世代にわたって意識の変化が進んでいるといえます。この傾向は、グローバルでも大差ありません。