決断に関するアウトプットを改善する
次に、結論が間違っていた場合のダウンサイドリスクを軽減するために、決断の実行をどう改善するかを考える。
どれだけ優れたデータやプロセスを駆使しても、結果的に最適ではない結論に至ることは、誰にでもある。しかし、そのようなミスは、特に大退職時代には犠牲が大きい。自分自身が、みずからの最高リスク管理責任者であることを忘れずに、時間をつくり、自分の下した決断が最善ではなかった場合にさらされるリスクを軽減する方法を考える。
ジェフ・ベゾスやリチャード・ブランソン卿が好んで使う、意思決定アプローチを適用するのも一つの手だ。決断を「一方通行のドア」と「往復可能なドア」の2つに分ける方法だ。
往復可能なドアの決断とは、比較的簡単に後戻りできる決断をいう。ベゾスもブランソンも、このような決断には思案や議論に時間をかけるべきではなく、試してみて、必要ならば後戻りすればよいと述べる。このタイプの決断は、学習の機会として優れている。
対照的に、一方通行のドアの決断は、不可能ではないにしても後戻りが難しい決断であり、それゆえ最終的な決定を下す前に、あらゆる選択肢を慎重に検討して評価するために、時間と労力をかける価値がある。
したがって最初に問うべき質問は、あなたが考えているキャリアチェンジが、往復可能なドアと一方通行のドアのどちらの決断なのか、ということだ。
もしかしたら、あなたが望んでいるのは副業を始めることかもしれないし、いまの会社で別の役割に異動することかもしれない。比較的簡単にやめるか後戻りできる変化を考えているならば、あなたは運がよい。試してみて、学びの機会にしよう。しかし、そうではなく犠牲の大きさを考えると一方通行のドアになってしまうと思う場合には、一方通行のドアの決断を往復可能なドアの決断に変える方法はないか考えてみる。
よく知られる例として、リチャード・ブランソン卿がヴァージン・アトランティック航空を立ち上げる際に、ボーイングとの契約交渉で、操業できなかった場合には購入した飛行機を返却できるという条項を加えたという話がある。結局、その条項を行使する必要はなかったが、この交渉によって、一方通行のドアの決断を往復可能なドアの決断に変えることができた。
いまの会社や仕事の中で、自分が達成したいと考える目標に類似したキャリアを手に入れる方法はないだろうか。サバティカル休暇を取ったり、パートタイムに切り替えて働きながら何かを試したり、情報収集したりできないだろうか。あるいは自身のネットワークを構築したり強化したりして、自分の意図した行動が期待外れに終わった場合の選択肢を増やすことはできないだろうか。
それが一方通行なドアか、往復可能のドアかの区別は、経験則や先入観に基づくヒューリスティックな決定であることを認識しよう。
何かを一方通行または往復可能と特定すること自体が、あなた自身のリスク許容度や、自分が払う覚悟のある犠牲の大きさに左右される判断だ。ある人には後戻りできないと思えることでも、別の人にとっては無理が生じないことかもしれない。
また、一方通行のドアの決断を往復可能なドアの決断に変えるといっても、簡単に押すことができる「元に戻す」ボタンを必要としているわけではないことも、心に留めてもらいたい。覚えておいてほしいのは、一方通行のドアの決断とは、失敗した時の犠牲が大きすぎると、あなたが実際に考える決断であるということだ。
取り消すことができない決断に伴うリスクを減らすことも、最終的に往復可能なドアの決断に変える一つの手段である。したがって一方通行のドアの決断を撤回できない場合には、判断ミスによる犠牲を小さくする方法がないか考えよう。失敗した場合に犠牲を負ってもいいと思えるほど犠牲を小さく抑えることができ、その結果引き返した場合も事実上、往復可能なドアの決断に変えたことになる。