決断に関するインプットを改善する

 まず、より正確な成果を得るために、判断に必要なデータおよび解釈をどのように改善できるかを考える。

 最もよくある心理的なバイアスについて記憶を呼び覚まし、バイアスが生じた時に、それを認識する確率を高めることから始めよう。20年以上にわたって心理学を教えてきた筆者だが、自分自身も何らかの意思決定を行う際には、いまだに以下のようなバイアスの影響を受ける。

アンカリング効果:判断や評価を行う際、たとえば自動車や住宅の提示価格のように「アンカー」、すなわち出発点となる基準に影響される傾向。

確証バイアス:自分の意見と一致するニュース記事ばかりを見つけて信じるように、自分がすでに正しいと思っていることを裏づけるような情報を好む傾向。

利用可能性ヒューリスティック:最近のもの、鮮明なもの、強い感情を伴うものなど、記憶の中でより「利用可能性」が高い、つまりは取り出しやすい情報を過大評価する傾向。たとえば、宝くじの高額当選が発表されると、宝くじの売上げが増加する傾向がある。

フレーミング効果:人間の判断は、問題や情報の表現方法に大きな影響を受けるという現象。たとえば、私たちは一般的に「利益を獲得するため」よりも「損失を回避するため」に行動しようとする。

 これらのすべて(ほかにも挙げられる)が、本稿のテーマであるキャリアの重大な決断に対するアプローチに影響を与えている。

 筆者のモットーに、「苦手なことは人に頼る」というものがある。この場合、客観性を維持することだ。「人に頼る」ことで、自分の思い込みを正し、ひいては自身が囚われているバイアスに対抗してくれそうな相手に、自分の決断とその条件に関する相談に乗ってもらうのがよい。

「悪魔の代弁者」を立てて、あえて反対意見を聞くというのは、いまさら当たり前のことだと思うかもしれない。しかし、人間は、特に困難な状況に直面すると、自分と意見が同じだと確信できる相手だけに相談するという安全策に走りがちだ。したがって、あなたの最終的な決断とは利害関係のない人を探し、嘘偽りのない正直な意見でなければ自分の助けにはならないのだと伝える。

 決断の方法を構造化して、「プロセスに頼る」こともできる。キャリアに関する決断は、非常に複雑でリスクが高い。客観性を保ちながら、真っ向から取り組むことなど、ほとんど不可能だ。そうではなく体系的なアプローチを取り、細かく分解して、自身の敵であるバイアスの裏をかくことだ。

 たとえば、実際に考え始める前に、決断に関係する要素をどのように評価するか、ロードマップを作成して、それぞれの要素に時間を割り当てる。そうすることで、どの要素も見落とすことなく、また個々の要素に時間をかけすぎたり、逆にかけなかったりすることもなくなる。

 重要なのは、自分の決断について検討を始める前に、プロセスを明確にしておくことだ。そうすれば不用意にプロセスをやり直して、再びバイアスがかかるのを回避することができる。