
どのような仕事をしているのかと尋ねられた時、役職を答えるのは珍しいことではない。しかし、組織の地位や肩書きに見合うような、権限や影響力を行使できていないと感じることもあるだろう。問題は、こうした客観的な「地位によるパワー」と、主観的な「パワーに対する意識」の違いはストレスを生み、後者の変動が大きいほどウェルビーイングの低下を招きかねないことだ。本稿では、主観的なパワーの変動がなぜストレスにつながるかを論じ、それに対処するための4つの方法を紹介する。
たいていの人は、次の質問に数え切れないほど答えてきたはずだ。「仕事は何をしていますか」。そして、多くの人は「プロジェクトマネジャー」「ITサポートスペシャリスト」「営業担当バイスプレジデント」などと答えるだろう。
しかし、役職は、実際の仕事内容を示す「動詞」ではない。組織のヒエラルキーにおける正式な地位を示すはものではあるが、職場で日々、その時々に、自分がどれほどのパワー、すなわち権限や影響力を行使できると「感じている」かについては、役職に必ずしも反映されていないのだ。
たとえば、筆者らの私生活と仕事上の知り合いである2人の人物、ニーナとモーガンは、仕事における自分のパワーをどのように自覚しているか、次のように語っている。
「私はそれぞれのプロジェクトを統合するチームに対して、プロジェクトの期限を設定し、遵守させ、成果を伝達し、資金調達の決定を承認しています。(中略)エンジニアリング部門のトップを含め、多くの人が私に質問したり、アドバイスを求めてきたりします。相当な責任を担っており、自分はとても大きなパワーを持っていると感じることが少なくありません」(ニーナ)
「私は、オフィスのキッチンを常に清潔に保つようにしています。メールを送ったり、掲示を貼ったりしています。人に影響を与えるようなことは、何もしていないと思います。結局、食事の後片づけをして、全員分のお皿を洗うだけで終わってしまうのですから。(中略)オフィスにいない時はたいてい、あまりよく知らない都市で見込み客にアウトリーチするイベントを企画するために出張しています。夜遅くまで知らない人に招待状を送り、5人しか集まらなかったこともあります。もっとたくさんの人が来てくれないかと、ドアを見つめながら不安な夜を過ごすこともたくさんあります。自分が恥ずかしくなることさえあります。そんな時は力が抜けて、無力感に襲われるのです」(モーガン)
このような体験談を読むと、ニーナはパワーのあるエグゼクティブで、モーガンは下位のポジションに就いていると思うかもしれない。しかし、ニーナの正式な役職は「アドミニストレイティブ・アシスタント」、モーガンの正式な役職は「北米担当バイスプレジデント兼マネージングディレクター」だ。
ニーナとモーガンはなぜ、肩書きには表れない権限や影響力に対する意識を持っているのか。そして、なぜそれが重要なのだろうか。
筆者らの研究では、本人が感じる仕事上のパワーと、肩書きが示すパワーのレベルは、大きく異なることが示された。そして、自分のパワーにまつわる体験は日々変動することがわかっている。重要なのは、この変動には代償が伴うことだ。ウェルビーイングを低下させるのである。