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大退職時代(グレート・レジグネーション)が到来し、離職を検討する社員が急速に増えている。社内でポストの空きが増え、募集をかけても枠が埋まらない。新しい人材を獲得できても、研修や教育に要するコストや時間は莫大だ。この状況を脱するには、採用よりも社員のリテンション(維持)に集中するほうが有効である。本稿では、いまいる社員を引き留める6つの戦略を紹介する。


 従業員が望む──そして期待している──労働環境と、彼らの勤務先の労働環境の間のミスマッチが広がっている。これが、筆者らが数カ月間にわたり数十の企業の幹部に話を聞いた結果、また従業員の要望を知るために実施した複数の国際調査から、そして幅広い業界と職種にまたがる80万人の職場に対する期待と満足度を調べた20年間のデータを検証した結果から、浮かび上がった事実である。

 多くの労働者が職場を去っている理由と、米国のあらゆる業界の企業が膨大な数の求人を埋められずに困っている理由が、この発見により説明できるかもしれない。さらに人材不足への部分的ながらも即効性のある処方箋、すなわち会社の魅力を高めることで社員の減少を食い止める秘訣に関するヒントが潜んでいるかもしれない。本稿では、そのための6つのコツを紹介しよう。

事態はどこまで深刻なのか

 状況は厳しい。クライアントから聞いた話では、一部の職種では人員減少率が30%を超え、製造業の中には2020年3月以降の工場従業員の離職率が100%を超える企業もある。他の業種、特にテクノロジーやデータサイエンスの分野でも人材の入れ替わりが「容赦なく」続き、常にポストの空きがある状態だと経営陣はこぼす。

 こうしたエピソードを裏付けるように、セントルイス連邦準備銀行のデータでも、コロナ禍における自発的な「突然の退職」が幅広い業種で、着実かつ劇的に増えている実態が示されている。

 労働市場を揺さぶる昨今の激動は、すぐには収まりそうにない。実際、筆者らがフューチャー・フォーラムと共同で実施した最新調査でも、世界中の知識労働者1万人以上のうち57%が来年中の転職を考えていると回答した。

解決策は何か

 新たな人材の採用には2週間前通告で社員を解雇するよりはるかに長い時間がかかることを、経営陣は認識すべきだ。そのうえで採用を加速させつつ、社員のリテンション(定着)を高めるための手を即座に打つこと。そのために企業は、自社で働くことの意味をいま一度問い直し、従業員と認識を共有する必要がある。

 筆者らの手元には、人々が職場で重視するものに関して、20年以上にわたり収集した約80万件のデータがある。多様な業界のホワイトカラーとブルーカラー双方からの回答を見ると、人々が職場で重視するものは主に4つのカテゴリー──価値観、パーパス、確実性、帰属──に分類できる。

 4つの要素はいずれも従業員のリテンションと新規人材獲得の両面に当てはまるが、採用と研修にかかるコスト、および新規採用者が前任者と同レベルの仕事をこなせるまでに要する時間を考えれば、いますぐリテンションに集中することが不可欠だ。

 では、どうやればよいのか。筆者ら研究を通して、以下に紹介する6つの手法が最大の効果をもたらすと確信している。