●黄金律を忘れない
思いやりとは根本的に、他者の幸せな姿を見たいという思いであり、それを実現しようとすすんで行動を起こす気持ちだ。これは基本的に、「己の欲する所を人に施せ」という黄金律の言葉の通りである。
この黄金律を実践するには、相手の視点で考える必要があるため、知恵のある思いやりを実行に移すうえで有益なステップになる。他者の立場に立って考えられれば、難しい状況を新たな視点から見直せる。いま一度立ち止まり、自分の立場からとらえた状況と、他の誰かの視点から見た時の状況は、おそらく非常に異なっているのだと認識できるようになるだろう。
ただし、相手の立場から状況をとらえることは、熟考するうえでは好ましい行動だが、相手が感じていることや経験していることをすべて知っていると思い込まないのが重要である。ますます多様化する今日の職場環境では、とりわけ肝に銘じたい。相手の立場に立って考えることと、相手の現実を理解していると思い込まないことのバランスを保つべきであり、そのためには聞き上手になることが求められる。
●熱心に耳を傾けよう
私たちには耳が2つあるが、口は1つしかない。これはつまり、私たちは話す倍の量を聞くことができ、聞くべきであることを意味する。
あなたが他者の話に心から耳を傾ければ、その相手は聞いてもらい、見てもらったと感じて、人としての主たる欲求の一つが満たされるだろう。オープンマインドと学習意欲を持って熱心に耳を傾けることができれば、より多くの知恵を得られるうえ、真の意味で他者の助けになれる。
大事な対話に臨む前には、準備に十分な時間をとることだ。つまり、問題解決に注力する代わりに、きちんとした環境を整えて対話に臨むことで、目の前の相手に全神経を集中し、相手が求めていること、感じていることに耳を傾け、感じ取ることができるようにするのである。
●自分はいかに役立てるかを自分自身に問い掛けよう
中国のことわざに「思いやりへの道はない。思いやりそのものが道である」というものがある。自分がいかに相手の役に立てるかを相手に尋ねることは、「思いやりへの道」にすぎない。誰かと向き合う時は、その前にまず、相手がいまどのような状況にあるのかを考えよう。その人にとって何が課題で、何がうまくいっているのか。
そして、自分自身にはこう問い掛けよう。この人は困難を乗り越えるために、私からどのような支援を必要としているのだろうか。困難の一因なのに本人には見えていないことは何か、より深い自己認識を得られるよう、どのようなナッジを必要としているのか。面談をする前に、このような疑問についてじっくり考えることは、相手の成長と発達に焦点を合わせた、より人間味ある相互作用を生み出す一助になるだろう。
●潜在力を引き出すために背伸びさせよう
誰もが、何かを成し遂げ、評価されたいものだ。優れたリーダーは、現在の能力を的確に評価するだけではなく、ストレッチした挑戦を通して真の潜在力を引き出す。しかし、これは簡単ではない。すでにうまくこなしている人にもっとうまくやるように求めることは、逆に相手を落胆させ、やる気を失わせるおそれがある。
とはいえ、リーダーシップとは、人をよい気分にさせ、満足させ、安心させることではない。リーダーシップとは、その人が本当は向き合いたくないことにも目を向けさせ、支援することである。こうした気詰まりな会話を避けるのではなく、リーダーの役割は人々の潜在能力を引き出すことにあり、それが真にその人を思いやっていることになるのだと考えるとよい。
知恵と思いやりを通して、リーダーシップにいっそうの人間味を加えることで、誰もが本当の意味で人間らしいつながりを築きたいと、心から思う文化を生み出せる。
リーダーとして、自分が周囲に与える影響を絶対に過小評価すべきではない。リーダーには、人々の生活をコントロールする力がある。また、彼らがこなす仕事に対しても権限や影響力を持っている。さらに、彼らがどのような扱いを受けていると感じるかを左右する力がある。これは重大な責任だ。
だからこそ、人間味あふれる方法でリーダーシップという難しい仕事を担うことが、よりいっそう重要になる。そうすれば、リーダーは人々のワークエクスペリエンスや責任感、仕事のパフォーマンスに対して、望ましい影響をより的確に及ぼせるのだ。
"Becoming a More Humane Leader," HBR.org, November 23, 2021.