DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)編集部から、新刊『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』を刊行しました。また、DHBRの最新号(2022年2月号)の特集テーマは「アジャイル化するプロジェクトマネジメント」です。一見異なるテーマですが、意思決定プロセスに着目すると重なる部分があります。

データ分析が成功しても
ビジネスに失敗する理由

 DHBR編集部では、新刊『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』を発刊しました。著者は、滋賀大学データサイエンス学部の河本薫教授です。完売した特集号「データドリブン経営」(2019年6月号)の注目論文「現場の能力を引き出すデータ分析の6つの型」を書籍化しました。

 河本教授は、大阪ガスのデータ分析専門組織「ビジネスアナリシスセンター」の所長を務め、データサイエンティストという言葉が広まる前から、データ分析業務を自ら手掛け、その組織運営や人材育成に関わっていました。

 しかしながら、当初は悪戦苦闘が続いたそうです。河本教授は、データ分析力で会社に貢献しようと意気込みましたが、「現場に提案に行っても門前払い、分析結果を説明に行っても『勉強になるよ』と 言われるだけでおしまい。社内からは『河本のやっていることは虚業だ』なんて囁かれました」というのです。

 新著には、当時の思いをこう記載しています。

「一生懸命データ分析しても立派な報告書として保管されるだけの空しさや、自分では期待に応えたつもりの分析結果が業務に使われない悔しさ、そして会社のヒトやカネを使ってもビジネスに貢献できないというもったいなさを何度も感じてきました。この空しさ、悔しさ、もったいなさが原動力となって、なぜビジネスに役立たないのだろうか、どうやればビジネスに役立つのかを考え抜いてきました」

 2018年に滋賀大学に転身し、教壇に立ちながら多数の企業との交流を通じ、さらにこの考えを深めます。「20年間悩み続けて、ようやく言語化し体系化するに至った」と河本教授が自負するのが、本著です。

 その内容を端的にいえば、データ分析・AIを実務に活かすためには、暗黙知となった意思決定のプロセスそのものを形式知化すること、そして、その意思決定プロセスの改革こそが企業の競争力を高めるうえで欠かせないということです。特に、意思決定プロセスを設計する型を6つに類型化し、そのポイントを多数のケースとともに記載しています。

意思決定プロセスの形式知化

 さて、今号のDHBRの特集は「アジャイル化するプロジェクトマネジメント」です。プロジェクトマネジメントの特集号は2003年以来、およそ20年ぶりとなります。

 今号の内容については「プロジェクト管理はリーダーに必須のスキルである」に譲りますが、昨今のプロジェクト管理の考え方は、データ分析・AI活用の考え方と通じる点があります。

 プロジェクトを動かすには目標を設定し、ステークホルダーを特定して、計画をモジュール化して、素早く意思決定を繰り返していくことが欠かせません。

 どのような目標を掲げ、どのようなメンバーと対話し、どのようなデータを用い、どのような判断を下して、どう案件を動かし、どの段階でチームは解散するのか。

 これらの問いに全て答えるには、組織内でそれまで暗黙知となった意思決定プロセスを形式知化することが重要です。これはデータドリブン経営の実現において重要な考え方と重なる部分があります。

 意思決定プロセスが形式知化されることで、たとえ大きなプロジェクトでも小さなモジュールに分解して管理できます。そこで、データ活用しながら実験と学習を繰り返すことで、成功確率を高めることができるのです。

 プロジェクト管理とデータドリブン思考、その重なる部分には企業の飛躍のヒントがあります。ぜひ、どちらもご一読いただければ幸いです。(編集長・小島健志)