プロジェクトマネジメントの重要性が見直されています。そこで、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2022年2月号では、「アジャイル化するプロジェクトマネジメント」と題した特集を組みました。
アジャイル化する
プロジェクトマネジメント
特集第1論文のタイトルの通り、「プロジェクトエコノミーの到来」です。
プロジェクトマネジメント協会の2017年推計によると、2027年までの10年間に約8800万人がプロジェクトマネジメント関連の業務に就き、世界のプロジェクト指向の経済活動の規模が12兆ドルから20兆ドルに成長する見込みです。
新型コロナウイルス感染症の危機によってさらにこの動きが加速しており、実際、さまざまなプロジェクトが社内外で動き始めていることでしょう。リーダーにとっては、プロジェクト管理能力が問われる時代になったともいえます。そこで、同論文ではプロジェクトの価値創出と便益に着目した「プロジェクトキャンバス」というフレームワークを紹介します。
とはいえ、プロジェクト管理の重要性は20年以上前から叫ばれてきました。その頃といまと何が違うのでしょうか。
キーワードは「アジャイル」です。ソフトウェア開発手法の一つであるアジャイルが浸透し、その原則と価値観が組織運営の領域にまで広がっています。プロジェクト管理においても、プロセス管理を重視する旧来型の方法だけでなく、課題に対して即座に対応するアジャイルを取り入れることが欠かせません。
特集2番目では、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソンとランジェイ・グラティ両教授が「アジリティハック:伝統組織に敏捷性をもたらす手法」を提案します。
一貫した業務プロセスや効率性を重んじる伝統企業においても、一部の企業ではアジャイルの考えを取り入れて成果を上げています。ペプシコやゼネラル・エレクトリック、ソニーグループなどのプロジェクトチームの事例から、その成功ポイントをお伝えします。
特集3番目の「メガプロジェクトで実験と学習のサイクルを高速化する方法」では、巨大なプロジェクトに着目します。高速増殖炉「もんじゅ」や英仏海峡トンネルがなぜ失敗し、テスラ「ギガファクトリー1」がなぜ成功したのか。これらの事例から見えたのは、モジュール方式の重要性でした。
一つのモジュールを仕上げた経験が、次のモジュールの仕上がりを改善するという流れが繰り返されることで、プロジェクト進行中に実験と学習が行われます。このスピードを速めることで、コストダウンと同時に安全性と生産性が高まるのです。
一方、日本型組織では欧米型のプロジェクト管理ではうまくいかない場合があります。成功のカギとなるのは「限られた時間でいかに合意を形成するか」でしょう。
特集4番目は、東京工業大学の桑子敏雄名誉教授による「利害の対立を超え、プロジェクトを成功に導く方法」です。東京五輪の失敗と英国ワクチン調達プロジェクトの成功を引き合いに、プロジェクトを成功に導く3つのポイントを挙げます。さらに、ダム建設において対立する官公庁と地域住民を仲介した経験から、その合意形成のメソッドを明かします。組織そのものがプロジェクト型に変わるうえで必要な考え方も記載しています。
では、多数のプロジェクトを束ねる経営トップには、どのような視点が必要でしょうか。日本マクドナルドホールディングスの日色保・代表取締役社長兼CEOにインタビューしました。
日色氏は「忙しい時ほど深く考えることをやめて、仕事を終わらせることが目的になりやすい」と指摘します。その時、大事なのがメンバーに「自分たちはお客様に何を提供したいのか」と問うことです。組織と仕事の原点に立ち返らせる。それがリーダーの役割です。
このように、アジャイル化するプロジェクトマネジメントを理解するうえで多数の視点を盛り込んだ特集です。ぜひご一読ください。(編集長・小島健志)