●マスク着用を推奨あるいは義務化すべき時を定める
マスクを着用すれば、新型コロナウイルスに感染することと、(自分が感染している場合に)他人に感染させることを防ぐ効果がある。筆者らの2021年11月の調査では、企業の90%が屋内でのマスク着用を義務付けており、大半(58%)がワクチン接種の有無にかかわらずマスク着用を義務付け、ほとんどの企業(70%)が場所を問わずマスク着用を義務付けていた。
米疾病予防管理センター(CDC)は、地域社会での感染率が高いか相当程度ある場合はワクチン接種の有無にかかわらず、屋内で誰かと一緒に過ごす際にマスクの着用を推奨している。職場では、ワクチン未接種の従業員が、従業員食堂や社内のスポーツジムなど、マスク着用が困難な一部のエリアに立ち入ることを制限している企業もある。
健康でワクチン接種済みの人も、その地域で感染拡大が起きている時は、屋内でマスクを着用したいと考えるかもしれない。企業が従業員にマスク着用を義務付ける場合は、米国雇用機会均等委員会(EEOC)のガイドラインに従うことにより、「障害を持つアメリカ人法」の規定に基づいて提訴されることを避けられる。
●検査を奨励する
筆者らの調査では、84%の企業が定期的な検査を実施する予定であると回答したが、その中にはワクチン接種を義務化しておらず、その予定もない企業もある。検査を実施する予定の企業のうち、80%は少なくとも週1回実施する予定だ。25%の企業は、州法で認められている場合は従業員が検査費用を負担することを期待している。
新型コロナウイルスの検査では、抗原検査が有力な選択肢だ。抗原検査はコストが比較的安価で、検査結果もすぐにわかるが、米国内の多くの地域では供給量の確保が課題となっている。企業は、OSHAのガイドラインを満たすために監視下で検査を行うよう従業員に指示し、無症状で陽性だった人を対象に、確定診断のための検査を手配すればよい。また、すべての従業員に対して、体調が悪い時は出社を控えるよう指示することも忘れてはならない。
●出張の再開は慎重に判断する
ほとんどの企業は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってほどなく、国外への出張を全面的に取りやめたが、オミクロン変異体が確認された時点では多くの企業が出張を再開していた。この変異体は出張のリスクを高める可能性がある。また、国際ルールは目まぐるしく変化し、検疫が求められたり、出張が中断されたりする恐れもある。
より感染力の強い変異体が登場したことで、企業のリーダーは感染リスクの高い地域への出張を許可することを、これまで以上に慎重に判断すべきだ。出張の代わりに、ビデオ会議システムを利用するよう促したほうがよいだろう。出張を減らせば、コストと時間を節約し、環境へのダメージも軽減できる。こうした点を考えると、企業のリーダーは当分の間、出張を制限し、出張費の支出を減らす可能性が高い。
●感染者が確認された場合に報告する
今後、多くの職場が新型コロナウイルスの感染を経験することになる。企業は、社内で感染者が確認された場合は包み隠さず報告すべきだ(ただし、感染した従業員のプライバシーは尊重しなくてはならない)。ワクチン接種済みの従業員は、感染者と接触した場合でも、無症状であれば隔離を求める必要はない。
●メンタルヘルスのケアを支援する
従業員のメンタルヘルス上のニーズに対応することは、今後いっそう重要性を増すだろう。コロナ禍が始まって以降、抑鬱と不安に悩まされる人の割合は増えている。米国では2020年4月~2021年4月に薬物の過剰摂取による死者数が10万人を超え、記録的な水準となった。友人や家族の死を経験した人も少なくない。
企業は、デジタルテクノロジーを使ったバーチャルなメンタルヘルス・ケアを従業員に提供し続けるべきだ。ただし、多くのデジタルによるメンタルヘルス・アプリの有効性はまだ限られているというエビデンスがあることは忘れてはならない。
●さまざまな措置の有効性について最新情報を入手する
最後に、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、どのような措置が有効で、どのような措置の効果が乏しいのかについて、常に最新の情報を入手すべきだ。
たとえば、たいていの企業は、職場での感染を減らすうえで効果は乏しいと明らかになっていた検温を廃止していることが、筆者らの調査で判明した。また、ほとんどの場合、新型コロナウイルスの感染を防ぐには通常の清掃で十分だということがわかってきている。消毒を行うのは、多くの人が触れる物体や、感染者がいた職場だけで十分なのかもしれない。企業は、安全性を高める効果がほとんどない措置をやめることで、有効な感染対策や事業活動に取り組むゆとりが増える。
臨床上の推奨事項も頻繁に更新されている。ワクチンのブースター接種、マスク着用、旅行、検疫のガイドラインの変更については、CDCがここに掲載している。
新型コロナウイルス感染症は、人道上の悲劇であり、世界中の企業の事業計画も台無しにした。残念ながら、この感染症がすぐに消えてなくなることはなさそうだ。企業と労働者は、機敏に対応し続ける必要がある。企業は警戒を緩めず、自社のニーズを満たしつつ、従業員と顧客と地域コミュニティの安全を守るために、有効性が確認されている措置を継続し、新たな措置も導入すべきだ。
"The Omicron Variant: How Companies Should Respond," HBR.org, December 03, 2021.