●ワクチン接種を促す

 新型コロナウイルス感染症による重症化、入院、死亡を防ぐうえで最も有効な方法がワクチン接種であることには、現在も変わりがない。ワクチン接種者は、新型コロナウイルスに感染する可能性が6倍低く、入院する可能性が12倍低く、死亡する可能性が14倍低い。

 筆者らが2021年11月に実施した米国の企業543社を対象とする調査では、米国労働安全衛生局(OSHA)の緊急臨時基準連邦政府の請負業者に対する行政命令が裁判所で支持された場合、企業の半数以上(57%)が従業員に新型コロナウイルスワクチンの接種を義務付ける計画であることがわかった。この2つの規定が覆された場合、ワクチン接種を義務化するとした企業はわずか25%だった。

 新型コロナウイルスワクチンの接種義務化が、従業員の採用や定着に大きな影響を与えている気配はない。義務化が従業員の辞職につながったと答えた企業は約13%にすぎず、義務化が従業員の採用や定着に役立ったと答えた企業も同じ割合(13%)だった。

 ワクチン接種を容易にすることは、接種に積極的ではない人の接種率を高める鍵だ。企業は柔軟な勤務体系や有給休暇を通じて、ワクチン接種を推進し続けると同時に、職域接種の実施を検討すべきだ。

 ●オフィス勤務の再開を決める時は地域の感染率を考慮する

 筆者らによる2021年11月の調査では、リモートワークが可能なすべての従業員がすでに職場に復帰したと回答した企業は27%で、そのような従業員の一部が職場に復帰したと答えた企業は56%だった。

 オミクロン変異体の感染力の強さや重症化リスク、およびワクチンや過去の感染に対する免疫回避能力の詳細が明らかになるまでは、多くの企業がリモートワーカーの職場復帰を見合わせると予想される。

 職場での感染リスクは、地域の感染率と強い相関関係がある。感染率が低い地域(人口10万人当たり10人未満)では、企業は安心して従業員の出社を再開できる。しかし、人口10万人当たりの感染者数が50人を上回っている地域も多く、そのような地域で出社を再開すれば、従業員の誰かが職場にウイルスを持ち込む可能性が高い。

 そのリスクを軽減したい企業は、オフィスの再開を先送りしたり、ハイブリッドワークの導入や、スケジュールをずらして出社する勤務体系の採用などを通じて職場に滞在する人数を抑制したりすればよい

 癌の治療を受けている人、免疫抑制薬を使用している人、臓器移植を受けた人など、免疫機能が低下している人は、感染率が大幅に低下するまでリモートワークを継続することを検討すべきだ。

 ●ソーシャル・ディスタンスを徹底する

 勤務スケジュールの柔軟化やリモートワークの導入は、ソーシャル・ディスタンスの確保に役立っている。加えて、リモートワークの従業員を職場に復帰させる際は、段階的にゆっくり進めるなり、職場での勤務時間をずらすなりして、安全性に配慮すればよい。

 企業は行動経済学の手法を用いて、従業員が職場でソーシャル・ディスタンスを確保するよう「ナッジ」してもよいだろう。たとえば、ミーティングルームの収容可能人数を2人までと考えるのであれば、その部屋に置く椅子を2脚だけにすればよい。

 ●換気を改善する

 建物の換気は、ウイルスの感染状況に影響を及ぼす。空気の循環をよくすれば、職場での感染リスクを減らすことができるのだ。

 換気を改善するには、かならずしも高価な改修を必要としない。換気の回数を増やしたり、既存の空気処理システムの空気濾過システムを改善したりできる場合も多いだろう。オフィスの窓を開放できるケースもあるはずだ。

 一方、紫外線照射装置を導入する必要はない。室内の空気を紫外線で処理することにより、新型コロナウイルスの感染を防止するというエビデンス(科学的根拠)はほとんどないからだ。